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  • ハッカーの哲学とネットワーク社会の構造(2)Hacker’s Philosophy and the Structure of Network-society.

    |ネットワーク社会の構造 蒸気機関と紡績機の登場が産業革命という社会変革を引き起こしたように、コンピュータの存在もただ利便性をもたらすだけではなく、社会の根底にある構造すらも変えてしまうであろうことは容易に推測できます。いえ、すでに変わりゆく世界を誰もが実感していることでしょう。 いまやほとんどすべての人と組織がコンピュータに“ 接続 ”されています。そのことは、生活の営みや、社会の在り方まで大きく変えていくでしょう。 コンピュータテクノロジーによってもたらされる社会変化には、いくつかの特徴的な原則を見いだすことができます。 それは、デジタル技術由来の「分散」とデジタル経済に作用する「ネットワーク外部性」という二つの力の働きによって示すことができます。 世界中に通信ネットワークが網の目のように張り巡らされることによってユーザー同士が結びつけられ、そして分散とネットワーク外部性という力が働くことによってもたらされる、カテゴリー別に水平方向に世界全体へと広がる「場(ば、field)」が幾層にも重なって構成される多層的なレイヤー構造が、現代のネットワーク社会の特徴なのです。 |中央集権型から分散型へ コンピュータの歴史は、中央集権型から分散型へのシフトの歴史だと言っても過言ではありません。 当初のコンピュータは中央集権型の管理システムの最たるものでした。コンピュータを導入するのも主に政府、軍、行政、巨大企業の本社などでした。 1950年代から1970年代中頃まで、コンピュータと言えば巨大な躯体を持つメインフレーム型のコンピュータのことでした。そして、その市場はほぼIBMが独占していました。 メインフレームは非常に高価であったため、プログラムを実行させるには、専門の管理者にプログラムをパンチしたカードを渡して、結果の出力を受け取るという方法をとる必要がありました。当然、各個人が自由にコンピュータを使うことなどは望むことすらできませんでした。 スティーブ・ウォズニアック(Steve Wozniak、1950年8月11日 ー )はAppleをジョブズらとともに創業し、1977年、AppleⅡをほぼ独力で開発した。AppleⅡはその性能もさることながら創造力にあふれた芸術性を備えており、当時のコンピュータユーザー、エンジニア、ハッカーたちに絶大な影響を与えた。彼は、自分自身のパーソナルコンピュータがつくりたいという純粋な動機からAppleⅡを創った。AppleⅡは世界初の量産されたパーソナルコンピュータとなり、パソコン時代の幕開けとなった。ウォズニアックはハッカー達から、最大限の敬意をこめて「Wizard(魔法使い)」と呼ばれる。 しかし、いまでは誰もがスマートフォンや個人のパソコンを持ち、自由に世界中とコミュニケーションを行い、自分自身のウェブページで世界中に発信しています。(スマートフォンの処理性能は1960年代のメインフレームの性能を遥かに超えている。) 中央の権威的な管理者によってネットワークが制御されるのではなく、ネットワークの参加者が対等な関係で結ばれ、集合的に運営する。それが「分散型」の仕組みであり、基本となる考え方です。 管理の意思決定を分散することによって、選択の自由がもたらされ、そのことが多様性を生みだします。その結果、より創造性が豊かに、そして危機に対しても強くなるという考え方です。 技術革新にともなう分散化によって変わったのは、通信方法やコミュニケーションの方法だけではありません。商品の生産の仕方も大きく変わりました。 従来の産業構造《オールドエコノミー》では、産業革命以降、主に工場などに多くの労働力を集めて、大量生産することによって「規模の経済」を働かせて生産コストを抑えた大企業が市場の勝者となってきました。つまり、それは中央集権型のビジネスモデルです。 しかし、ネットワーク型社会の産業構造《ニューエコノミー》では商品生産のために、一箇所に大量の労働者を集める必要はありません。世界中のどこからでも、より安くより品質の高い部品を生産する場所から仕入れを行い、労働力の安い地域で組み立てを行い、需要に応じて生産することができます。つまり、労働、生産、意思決定の分散がみられます。 高度な知識が必要な専門的なサービスであったとしても、世界中の優秀な人材とインターネットを通じてアクセスすることによって構築し、提供することができます。 オープンソース・システムのLinuxも、Gitという分散型のバージョン管理システムを用いて、世界中のプログラマと世界同時的に協働開発を進めています。開発に参加するプログラマたちは自らの自由な意思決定を保持しながら、オープンな環境で自主的にソースコードを書き加えていきながら協調して全体を構築していっているのです。 いままでは先進国が内部に留めていた仕事も、アジアやアフリカ、中南米などの新興国に分散しています。 ネットワーク化された社会では、コンピュータがインターネットにつながってさえいれば、世界のどこからでも商品、サービス、労働、情報といった価値を提供することができます。 ビットが私たちに要求するのは、制限のない自由な情報の移動と、より無駄のない効率的な情報処理です。 自由な移動と、効率的な処理のためなら、もはや国の国境すら越えてしまうのが、情報というものが根源的に持つ分散する性質なのです。(クロード・シャノンはこの情報が持つ性質を、熱力学におけるエントロピーとの類似性から、情報エントロピーという量で表した。) そして、ビットの要求する自由な情報の移動と、効率的な情報処理に真正面から向き合うことで形成されたのが、分散化を推し進めようとするハッカーたちの哲学なのです。それはつまり、真理を追い求め、新しい価値の創造のために積極的に情報を共有しよう、という考え方です。 この合理的な効率性に基づいた考え方に従って、コンピュータシステムの分散化は推し進められています。 |ネットワーク外部性によって集中する情報と富 ビル・ゲイツ(William Henry Bill Gates III、1955年10月28日 ー )は、10代の頃、学友のポール・アレンとともに最初期のコンピュータ組み立てキットAltair8800用にプログラミング言語BASICのインタープリンタを書く仕事を受託することから彼のキャリアをスタートさせた。当時ゲイツは、コード圧縮の名人だった。しかし、ハッカー・コミュニティは彼らの書いたAltair8800用BASICをハッカー倫理に従って複製し自主流通させて「共有」したことから、ゲイツとハッカー・コミュニティの飽くなき闘争の歴史が始まった。当時はまだソフトウェア著作権の概念は固まっていなかった。その後ゲイツはMicrosoftをIT業界における帝国にまで育てあげた。 しかし、分散する方向に一方的に流れているかのように見えるシステムや経済も、その反面で極度に集中化していっているように見える部分もあります。 例えば、Amazon、Google、Apple、Facebook、Alibaba、Microsoftなどがそうでしょう。 情報が分散する方向に向かうのであれば、なぜ一部の巨大IT企業に富が集中するのでしょうか? たしかにこれらの一部の巨大IT企業を除けば、先進国は停滞し、新興国が勃興している状況は、情報が分散していくのと合わせて仕事も富も分散に向かっているように見えます。グローバルに見れば、先進国に集中していた富は新興国に拡散し、格差は縮小しつつあります。 しかし、その一方でニューエコノミーに登場した巨大IT企業は、情報も富も一手に飲み込んでいっています。 この情報と富の集中は、「ネットワーク外部性」によってもたらされています。 ネットワーク外部性が強く作用し、それをコントロールしている代表的な事例としては、Microsoft Officeがあります。 ご存知の通り、Microsoft OfficeはExcel、Word、PowerPointなどのビジネスアプリケーションのセットで、ビジネスシーンにおいては圧倒的なシェアを得ています。 しかし、Officeと同じようなアプリケーションは、LibreOfficeなどもあり、かつては表計算ソフトのLotus 1-2-3はExcelより先行すらしていましたが、いまビジネスで実際に利用している人はあまりいません。 なぜなら、多くのユーザーがMicrosoft Officeを使っているため、同じフォーマットで共有したり受け取ったデータを加工したりする際の利便性が高まるからです。そのことによって、ますますユーザーはMicrosoft Officeに惹きつけられます。 たとえ、より性能に優れたドキュメントアプリケーションがあったとしても、相手方が使えないのであれば、自分だけ別のアプリケーションを使おうとは思わないでしょう。情報を共有する相手にもこちら側と同じアプリケーションを使うことを求めても応じてもらえることは、あったとしても稀でしょう。 もう一つ、より分かりやすい例をとりあげてみましょう。 1980年代に一世を風靡した任天堂のファミリーコンピュータにはセガのメガドライブなどのライバルがありましたが、ほとんどの少年少女たちはファミコンを選びました。 なぜか?それは、皆がファミコンユーザーであったため、ファミコンでなければ彼らは学校で仲間と一緒にゲームの話で盛り上がるという楽しみが得られなかったからです(性能はメガドライブのほうが優れていることは、彼らも知っていた)。「みんな持ってるファミコンが欲しい!」 そして、ゲームソフトの開発会社も、最も少年少女たちに支持されているファミコン上で新作のゲームをリリースすることを選択し、ファミコンのプラットフォームとしての優位性はより一層ゆるぎないものとなっていきました。 より多くのユーザーが使っているサービスが、より高い価値を持つ。小さいネットワークよりも大きいネットワークに参加するほうが、より高い利便性と価値を得ることができる。 これがネットワーク外部性と呼ばれる力です。 そして、ネットワーク外部性は、ユーザー数が一定数(クリティカル・マス)を超えると、より強く働きます。ユーザー数が正のフィードバック効果によってますます増加し、勝者が総取り、一社独占に一挙に傾くのがネットワーク外部性の特徴なのです。 デジタル経済においては、ユーザーの自己裁量によって非中央集権的なネットワークが広がる「分散」と、ユーザー数の拡大が「ネットワーク外部性」を強め、そのことによって一つのプラットフォームに「集中」がすすむことは、コインの表と裏の関係にあるといえます。 また、ネットワーク外部性の働きによって「より多くの人が使っているものに価値がある」潤沢さの経済は、従来の「誰も持っていないものに価値がある」希少性の経済と、価値認識の逆転があることにも注意を払う必要があるでしょう。 参照 >共有型経済の出現とシミュレーショニズムの戦略 |ネットワークにロックインされるユーザー ニューエコノミーにおいては、ユーザー企業はプラットフォームを活用して国境を越えて世界中にアクセスすることで分散的に協働を図る一方で、支配的プラットフォーム企業はネットワーク外部性によってユーザー、そして市場を総取りし、《ロックイン》しようとします。 もちろん従来の工業型経済においてもネットワークは存在していました。道路網や鉄道網、物流網などの物理的ネットワークです。しかし物理的ネットワークにおいては、ネットワーク外部性がニューエコノミーにおけるコンピュータ・ネットワークに比べて、そこまで強く働くことはありません。 例えば自動車は、道路という物理ネットワークを活用するための媒体といえますが、トヨタに乗っていてもホンダに乗っていても同じように移動できます。皆がトヨタに乗っていれば、むしろ自分はメルセデスに乗りたいとすら思うこともあります。もともとトヨタに乗っていた人が、メルセデスに買い換えても、すぐに運転にも慣れ、いままで通り使うことができるでしょう。 しかし、ITソフトウェアの場合、いままでMicrosoft Officeを使っている人が別のアプリケーションに乗り換えるとしたら、いままで作ってきたファイルは使えなくなってしまいます。乗り換えのためのコスト負担が周辺環境にまで派生してしまうのです。 ハードウェアの場合も同様に、Windows機ユーザーがMacに乗り換えようとしても、また新しいマシンに習熟するのに時間もかかり、いままで使ってきたソフトウェアや、一部の周辺機器は買い換える必要があります。 ある技術ブランドから別の技術ブランドに切り替える際には、追加の切り替えコスト(スイッチングコスト)が発生します。個人の場合はコストはそう大きくはないかもしれませんが、企業の業務システムなどの場合、スイッチングコストは膨大なものとなります。そして、ユーザーはスイッチングコストの負担という足かせのために、元のブランドの囲い込み《ロックイン》に直面します。 ニューエコノミーの巨大IT企業は、ユーザーを自社のプラットフォームに引き込み、シェアを獲得した上でネットワーク外部性によって競合を引き離し、さらに様々な補完サービスや割引などの便益の提供を通じて、囲い込み《ロックイン》します。 これは、開かれた自由なテクノロジーの利用を志向するオープンソースとは対極的な考え方です。 ユーザーはプラットフォームの利便性を得ると同時に、気を抜けば特定のプラットフォームにロックインされてしまいます。ロックインされると、ユーザーは特定のハードウェアまたはソフトウェアに、いわば閉じ込められた状態になります。 支配的なプラットフォーム企業はロックインしたユーザーに対して、さらに様々な追加サービスを提供、販売してロックインを強めていこうとします。Googleは当初シンプルな検索システムを提供することからはじめ、フリーメールサービス、スケジュール管理、Webサイトのアクセス分析などのサービスを追加していきました。これらのサービスを日常的に活用しているユーザーは、Googleを利用せずに一日を過ごすことは容易ではありません。結果としてユーザーは、検索システムというWeb上における認知機能がGoogleにロックインされています。 またさらに、プラットフォーム企業は獲得したユーザーから得られるデータをもとに新たなサービスを開発する機会を得ることもできます。AmazonはECプラットフォーム事業が主軸事業ですが、ECサービスで得られたインフラと知見をもとにAWS(Amazon Web Service)というクラウドサービス事業を展開しています。2017年度の営業利益は41億ドル、うち43億ドルがAWSがもたらしたものです(EC事業はロックイン強化のための投資を先行させておりマイナス営業利益となっている)。 |ユーザーとプラットフォームの二極によってつくりだされる「場」 国境を超えて分散して広がり協調するユーザーと、ネットワーク外部性によって中央集権化して管理する独占的プラットフォームとの拮抗する2つの力によって、カテゴリー毎にいくつもの《場(ば)》が形成されていきます。 「場」とは、人々が参加し、意識・無意識のうちに相互に観察し、コミュニケーションを行い、相互に理解し、相互に働きかけ合い、共通の体験をする、その状況の枠組みのことです。ユーザーもプラットフォームも周辺環境も広く含めた、関係性の束のようなものだと言ってよいでしょう。 コンピュータ・ネットワーク上の「場」においては、ユーザーとプラットフォームの間に、緊張感のある共存関係が築かれていきます。 ユーザーはより自由なテクノロジーの利用を求め、プラットフォームは顧客基盤から最大限の価値を引き出そうとします。 この相対する二つの勢力は、相対しながらも相互依存の関係にもあります。ユーザーは利便性の高いプラットフォームを利用して、他のユーザーとの相互アクセスを確保する必要があります。プラットフォームはより多くのユーザーからの支持をとりつけ、ネットワーク外部性を確保する必要があります。 サイバー空間の「場」における、ユーザー同士の相互作用はデータのやり取りを介して行われます。 プラットフォーム側のデータの取り扱い方次第でユーザーは「場」に引きつけられもし、離れてもいきます。 そして、ユーザーの活動はデータとしてプラットフォームにフィードバックされ、プラットフォーム側は再び得られたデータをもとに「場」を調整し、舵を取ります。(ユーザーとプラットフォームは再帰的関係にあるといえる) プラットフォームがユーザーのデータ利用と情報交換の自由を保障し、またユーザーがプラットフォームを公正な管理者として信頼することで、情報共有と相互作用が促進される時、「場」は大きく広がることになります。 すでに音楽、映像などの分野はiTunes、YouTubeなどの「場」に取り込まれています。そこでは、中間業者は存在せず、ユーザーとプラットフォームの二者があるのみです。 コンピュータ自体も最も早い段階で、業界そのものが「場」へと移行した市場です。元々は数多くのパソコンメーカーがそれぞれ独自に本体〜OS〜外部機器〜運用、保守まで提供し、様々なソフトウェア会社が異なるパソコンの仕様にあわせてソフトウェアを制作していました。しかしMicrosoftがWindowsによって市場を制覇すると、多くのソフトウェア、ハードウェアはWindowsという共通の「場」の上で展開する補完的なコンテンツのひとつとなっていきました。 今後、金融、健康、モビリティ(移動手段)など、様々な領域がネットワーク化を経て、それぞれがカテゴリー別に世界共通の一つの「場」に飲み込まれていくことになるでしょう。 コンピュータ・ネットワーク上の「場」は国境や地域を越えて世界全体に広がり、世界中のさまざまな内側と外側という境界を取り払っていきます。国家という枠組みでさえ、例外ではありません。そして音楽や映像、小売、医療、趣味といったカテゴリーごとの「場」が水平方向に何層にも重なるレイヤー構造となり、新しい世界のシステムを形づくっていくことになります。 |モジュール化するビジネスシステム では、次に新しい世界のシステム(=ネットワーク型経済、ニューエコノミー)におけるゲームのルールを説明しましょう。(何かをゲームや遊びと表現すると、決まって不謹慎だと言う人がいるが、楽しむことはいつだって重要だ) サンプル教材は、シリコンバレーのベンチャービジネス・システムです。 もちろん、これは一面的なとらえ方ではありますが、シリコンバレー式経済は、来たる新しい世界のビジネスシステムの一つの雛形であるといえるでしょう。 そして、ここでもコンピュータの構造を理解し構築するために用いた「モジュール」と「抽象化」という概念を組織にも適用することで、ゲーム(=ビジネスシステム)を俯瞰することができます。 シリコンバレーのベンチャービジネスシステムの特徴は、最終消費財またはサービスを生産するために、全体を機能別の自律分散型のベンチャービジネスに分解し、それらの小企業群が相互に補完しあうエコシステム(生態系)を構築したところにあります。 コンピュータは、きわめて膨大な要素が調和を保ちながら作動し、急激に進化しています。複雑化する技術を企業が取り扱うために、製品と製品開発チームをより小さなサブシステムである「モジュール」に分解することで、設計者、製造者とユーザーは高い柔軟性を獲得することができます。シリコンバレーのエコシステムでは、個々のモジュールに対して、異なる企業が別々に責任を持つことが可能となったことで、各モジュールの創意工夫の集積から信頼性の高い製品が生み出されていったのです。 また、システムをモジュールに分解することによって、システムに対する機能付加と機能削除が容易になり、システムの適応範囲に多様性を持たすことができます。 それは同時にシステムを構成する要素に意図しない変動が起こっても、システム全体を見直すことなく、モジュール単位でその事態を処理することができる「不確実性に強いシステム」であることを意味しています。 現在では、コンピュータ業界に限らず様々な業界でモジュール化が進んできています。 組織の「モジュール化」にあたり、全体のアーキテクチャのデザインと個々のモジュールをどのように定めて、それぞれのモジュールをどのように結びつけるのかを構想するために、私たちは渾然一体となっているビジネスシステムを「抽象化」してとらえる必要があります。 ビジネスシステムの「抽象化」の鍵となるのが、明示的なデザイン・ルール、インターフェイス、隠された情報の三つの概念です。 そして、モジュール化は様々なモジュールの組み合わせによって多様な選択肢(オプション)を生むことから、金融オプション理論に従ってシステム全体の価値も引き上げることになります。その価値創造のロジックがシリコンバレーに多くの富をもたらすことになりました。 |小さく生んで大きく育てる モジュール化の起源は、1964年に発表されたIBM System/360で初めて採用された設計方法にあります。 IBMや他のメインフレーム・メーカーのそれまでのモデルは、それぞれ独自で共通性もなく、各モデルは固有のOS、プロセッサ、周辺機器やアプリケーションを持っていました。そのため、メーカーが改良された新しいコンピュータ・システムを開発するたびごとに、特別なソフトウェアや部品も開発する必要があり、エンドユーザーも現状のプログラムをすべて書き換える必要がありました。しかもユーザーは、もしソフトウェアの変換に欠陥があれば、いままでの貴重なデータを失うリスクにさらされることになりました。つまり、従来のハードウェアには互換性がなく、新しいハードウェアへのデータの移植は困難でした。このため、顧客の多くは新機種の導入に消極的にならざるをえませんでした。 そこでIBM System/360の開発チームは、新たなハードウェアシリーズの互換性を確保するために、全体のアーキテクチャの「明示的・包括的なデザイン・ルール」を定めて、周辺機器を含めて機能毎のモジュールに分割し、各モジュールが相互に正しく動作するように連結方法を「インターフェイス」として定義してそれを公開し、モジュールに従わせました。 一方で各モジュールの開発者はデザイン・ルールに従う限りモジュールの中身は自由に変更が可能となり、新しいテクノロジーを積極的に取り入れることが可能となりました。モジュールの機能をどのように実現するのかについてはモジュールを超えて他の設計に影響を与えない「隠された情報」となり、各モジュールが個別に創意工夫に取り組むことを促す結果をもたらしたのです。 従来機種と新機種の間にソフトウェアの互換性を持たせるために、設計面で「モジュール化」の原則が採用されたことによって、コンピュータの設計はインターフェイスを境にして「見える情報(=明示的なデザイン・ルール)」と「隠された情報(=モジュールの中身の仕様)」に分けられることになりました。 「モジュール化」によって、IBMの異なるユニットと様々な外部企業が、独立してそれぞれのモジュールに取り組んだことで、イノベーションのスピードが著しく加速しました。それぞれのモジュールは単一のモジュールに集中することで、より深く追求することができ、実験的な開発も並行的に行われることになりました。そのため、System/360は多様なエンドユーザーのニーズにも応えられるようになり、商業的にも大成功を収めることになりました。 しかし、「モジュール化」は、長期的にはIBM帝国を浸食することにもつながりました。 新興企業でも、IBMのデザイン・ルールに従いながらも特定の領域に専門特化することで、IBMマシンと互換性がある、IBM製より良いものをつくることができたため、最終的にはIBMのモジュールから生まれた新興企業が、モジュール周辺で成長するダイナミックな産業構造を形づくり、まったく新しいコンピュータ・システムを創りだしてIBMの市場をほとんど奪い取ってしまったのでした。MicrosoftやIntelもそのようにして新しい市場の覇者となりました。 シリコンバレーでは、このような「モジュール化」による製品開発設計がより推し進められて、競合するモジュール同士の競争が促進されるだけでなく、技術モジュール周辺の数多くの企業群、ベンチャーキャピタルなどの支援機関、人材を輩出する大学研究機関なども含めた、情報を共有して相互に補完し合うクラスター(企業群)が形成されていきました。 シリコンバレーでは半導体産業の発展とともに株式公開が相次ぎ、それらの資金が近隣地域のベンチャー企業に再投資され、またそれらのベンチャー企業が上場し、さらに再投資するという好循環が生まれ、現在のシリコンバレーの隆盛につながりクラスターの形成を後押ししました。 シリコンバレーでは、上記の好循環の中で、大学の研究所から生まれたスタートアップ企業、大企業からスピンアウトしたベンチャーなどの小企業が「小さく生んで大きく育てる」式に連続的に多数生まれていったのでした。 そして、自律分散した企業群、モジュール内の積極的な創意工夫、モジュール間での新しい結合の試み、失敗を許容する文化といった要素が相乗的に働いて、臨機応変の改良(=インプロビゼーション)の連鎖が生み出され、いまでも数多のイノベーションを実現しているのです。 |移植性を確保しながら接続する ニューエコノミーにおいては、企業または事業も「移植性(portability)」を確保することが決定的に重要になります。 なぜなら、たとえいま好調でもてはやされている業種、業界であったとしても、現代の急激なテクノロジーの進化の中にあっては、たったひとつのイノベーションで産業そのものが突然死を迎えてしまうことも大いにあり得ることだからです。 実際に、かつてNTTドコモのiモードは世界最大のワイヤレスインターネットサービスプロバイダ(2006年1月時点、登録者数45,687,117人)として隆盛を極めていました。補完企業であるコンテンツプロバイダも着メロ・待受画面・占いなどのコンテンツを提供して市場は活況を呈していました。 しかし、AppleがiPhoneの発売を2007年6月に開始すると、iモードの市場は瞬く間に縮小し、数年のうちに実質的に市場は消滅してしまいました。 たとえ産業が消滅してしまわないまでも、移植性を確保できない企業は特定のプラットフォームにロックインされ、その餌食となってしまうことでしょう。 ニューエコノミーにおいては、企業は特定の市場、技術、業種業態、システム、プラットフォームに縛られずに自由にネットワークを移動できる移植性を確保しておく必要があります。特定の市場や技術に過度に最適化することは命とりになりかねません。過適応は別の環境への適応能力を締め出してしまいます。常に別の選択肢も残しておきましょう。 選択肢を持っていることは、プラットフォームとの交渉に際しての交渉力にもなります。移植性を持っていることは、企業が自律的に決定を行っていくために欠かすことができません。 また、ニューエコノミーで生存していくためには、企業は移植性を確保すると同時に、他社の力を活用して自社の強みにレバレッジを効かせるために何かしらの「ネットワーク」との「接続性(connectivity)」を確保する必要があります。 完全に他から独立したサービスにあるのはオリジナリティではありません(スタートアップにありがちな壮大なマーケティングプランによく見られる)。それは、広がりのない単なる独り善がりに過ぎません。 たとえあなたが開発、提供しているのがパーツの1つであったとしても、あなたはシステム全体について考える必要があります。一般ユーザーが関心を持っているのは、どのシステムが自分にとって有用か(目的にふさわしいか、好みにあうか…等)ということであって、個々のパーツの性能ではないのです。 トップマネジメントチームは自らに常々このような問いかけをする必要があります。 > あなたはどのシステム、つまりネットワークに接続するのか? > あなたが接続するシステム、ネットワークは今後どこに進んでいくのか? > システム全体に対して、あなたはどのような価値をもたらすことができるのか? > あなたは、どのようにシステムに接続するのか? これらの問いかけに対する答えに、モジュール化が進むネットワーク社会における、企業の存続と発展がかかっています。 私たちは自らの意思で、将来性のある優れたデザインルールを持つシステム、アーキテクチャを構築または選択していく必要があるのです。 |インターフェイスを定義する ブライアン・カーニハン博士は、「システムの力というのは、個々のプログラムよりも、それらのつながり方にある」と述べました。 この考え方は、ソフトウェアのみならずネットワーク社会におけるビジネスシステム、個々のビジネスについても当てはまります。 ネットワーク社会では、従来の工業社会と比べて、インターネットを通じてより多くの関係性の糸で個々のビジネスが結びつけられることになります。 ネットワークが網の目のように張り巡らされた社会の中では、自社をひとつのモジュールとして考え、移植性を確保しながらネットワークと接続するためには、私たちは自社のインターフェイスを明瞭に定義、デザインする必要があります。 インターフェイスとは、一般的に、ものごとの境界となる部分と、その境界における接続方式(つながり方)を指します。 緩やかな変化と限られた取引関係しかなかった工業社会とは違い、企業も漠然としたインターフェイスではネットワーク社会の高速、膨大な関係性構築を処理していくことはできません。シンプルでわかりやすいインターフェイスが効果的な情報処理を実現し、外部との連続した接続と柔軟な切り替えを可能にします。 残念ながら、ニューエコノミーの急激なスピードの中にあっては、セールス担当者に顧客の要望をお伺いを立てて、事後的に調整して商品・サービスを提供するような、エッジのない企業は生き残ることはできません。 私たちが、顧客、取引先から選ばれるためにはファーストコンタクトの時点から明確なコンセプトを打ち出す必要があります。そして、そのコンセプトを一貫して持続させることが期待されています。 ニューエコノミーにおいては、企業外部との取引関係は、さながらスイッチのONとOFFを切り替えるがごとく、スピーディーに対応していく必要があります。そのために当初から的確なコンセプトを伝え、そしてそれを効率よく実現していくためのインターフェイスをあらかじめ設計しておく必要があります。 設計の真髄は、競合する目標と制約をバランスさせることにあります。ときとして目標は相反して、二者択一のトレードオフの関係となることがあります。例えば、性能を重視すべきなのか、それとも性能を犠牲にしても互換性を選ぶべきなのか、といった問題にトップマネジメントチームはあらかじめ答えを出しておく必要があります。そして、その答えは顧客、取引先に求めてはいけません。トレードオフを選択し、一貫性のあるコンセプトを提示〜実装することこそが、あなたの企業の存在理由だからです。 一貫性のあるコンセプト、すなわちコンセプトの完全性を実現するためには、なによりもまず「シンプルでわかりやすいインターフェイス」を定義することが必要となります。 シンプルな事業インターフェイスを定義するにあたって、コンピュータプログラミングに倣って「標準入出力」という概念を用いてみましょう。 ここでコンピュータの概念を用いることは決して余興ではありません。 従来の経営戦略論では、事業定義を行うにあたって、業界内でのポジショニング、自社のリソース(内部資源)の強みや弱みなどから競争力を分析します。しかし、ネットワーク社会では業界の境界、自社と他社の境界はたえまなく変化していきます。そうなると境界が安定していることに前提を置いた従来型の経営理論は実効性のほとんどを失ってしまいます。 またネットワーク社会では、事業はコンピュータに接続され、業務処理の多くをコンピュータに依存します。コンピュータとスムーズに接続するためには、事業自体もコンピュータに接続される一種のソフトウェア、フィルタのように機能する必要があります。 ネットワーク社会型の企業は、業界内での位置や大きさ、自社の所有するリソースではなく、データストリーム(データの流れ)の処理機構として定義する必要があります。 それはつまり、事業を入力と出力を持つ一つの関数(函数、function)として考えるということです。そして、企業をいくつかの事業(関数)を接続した合成関数とみなします。 標準入出力とは、UNIXが実現したブレークスルーの一つで、あらかじめプログラムへのデータ入力と出力を関連づけ、標準入力、標準出力、標準エラー出力を設定しておくことによって、プログラムと各種デバイス、ファイル、他のプログラムとのデータのやりとりの複雑性を解決し、連結を容易にする基本的なフレームワークです。 標準入出力というフレームワークを用いて、シンプルで統一性のある事業インターフェイスを実装することによって、コミュニケーションが単純化され、コンセプトの完全性が促進されることになります。 標準入出力は、 プログラムにデータを入力する入口となるインプット、 プログラムから新たな生成物が出てくるアウトプット、 帯域外の情報が出力されるエラー、 これら3つの経路から成り立っています。 インプット、 アウトプット、 エラー、 これら3つの経路を明確にすることによって、つまり何を入力すると結果として何が出力されるのかをはっきりと示すことによって、 あなたの事業のコンセプトは、ユーザーにとって理解しやすく、より利用しやすいものとなり、広く受け入れられることとなるでしょう。 画一的で再現性があるインターフェイスを実装することが望ましいでしょう。 事業体へのインプット、アウトプット、エラーにはそれぞれ次のような要素が入ります。 <インプット> 社会的な課題 クライアントの課題 ユーザー データ 資金 労働力 原材料 費用 <アウトプット> より良い社会 クライアントの利益 進化したユーザー 加工されたデータ 投資リターン サービス 商品 効果 <エラー> やらないこと 瑕疵、不具合 リスク 不測の事態 事業領域の境界外の情報 対応範囲の境界外の情報 (エラーの検出は低レベルで、対処は高レベルで実行する) 事業体のインプットとアウトプットを定義するということは、事業体が「何を実現するのか」、いわばユーザーとの契約を決めることを意味します。エラーを定義することは「何を行わないのか」、つまり事業領域を決めることを意味します。 そして、標準入出力の3つのインターフェイスによって外部と結びつけられる事業体の実行部分となる内部のプロセスは、インターフェイスで定義された入出力を「どのように実現するのか」という点に集中して取り組みます。プロセスは、インターフェイスが定義されることによって実装に制限が加えられる反面、外部との接続にわずらわされることなく内部に集中できるため、むしろ創造性と効率が高まります。プロセスについてもインターフェイス同様、よりシンプルなほうが好ましいでしょう。 事業体のプロセスの構築は、最初から完全にうまくいくことはありません。早期にプロトタイプをつくり、インターフェイスに情報を流入させながら、たえまなくつくり直していくことが肝要です。時には、一からつくり直すことが必要になることも最初から想定しておくことが必要です。 また、プロセス内部のリソースの管理を誰が行うのかを初めから規定しておくことも重要です。共有される情報の管理者を誰にするかを決めておくことによって、リソースの配置転換、置換、付加、削除を円滑に進めなければなりません。そのことは、いずれ必要になる事業体の戦略転換に備えることにもつながります。 インターフェイスとプロセスからなる事業体におけるコンセプトの完全性を維持するためには、「インターフェイスの定義」と「内部プロセスの構築」は別々のチームが行うことが必要です。別々のチームがそれぞれ干渉を受けずに創造性を発揮することによって、コンセプトの完全性を保ちながらも有機的に進化する事業体が実現します。 特に、インターフェイスの定義は1人、または少人数のビジョンを共有したトップマネジメントチームによって行われる必要があります。船頭多くして船山に上る、という状況は避けねばなりません。そして、定義されたインターフェイスの情報は内外にオープンにして共有することが、幅広いユーザーの獲得と、より高い品質につながります。 このように事業体のインターフェイスを極限的に根本から定義することによってはじめて、コンセプトの完全性が維持され、事業体は移植性を保持しながらネットワークとの接続を確保し、ネットワークがもたらす多様性を取り込んで有機的に成長していくことが可能になります。 そして、ここで述べてきた事業体とは、企業や組織全体の場合もあれば、その組織の内部にある部門や、さらにその中のチーム、さらには個人単位のポジションについても同様のことが言えます。より大きく、地域コミュニティや社会全体にもあてはめて考えることもできるでしょう。 つまり組織構造の中にも、シンプルながら無限のバリエーションと広がりを持った「再帰的」な構造があるのです。 |ハッカーの哲学、再び 来たる未来の情報社会では、個人の行動履歴、個人の病歴などの生体情報、様々な取引履歴を含む信用情報、あらゆる動植物のDNA情報などありとあらゆる情報がデータとして流通することになります。 しかし、あなたの行動履歴や病歴などが特定の営利企業のデータ資産となり、本人には知る権利や活用する権利がないとしたら、あなたはどう思うでしょうか? いや、あなたは自分自身がどのようなデータを生成しているのかすら、気づくことはないのかもしれません。 それとも例えば、あなたの日常的に話す会話が誰かの特許を侵害していると言われたら、あなたはどう思うでしょうか? それとも、人間のDNA配列の一部が特定の営利企業の特許となるとしたら、どう思うでしょうか? または、もし仮に真理というものがあるとした時、その真理が誰かの知的財産権によって占有されるとしたら、どうでしょうか? もしくは、あなたを処罰する力がある法律が、あなたには秘密にされているとしたら? もしかしたら、あなたは監視されているかも? このような物事の見方は、少し偏り過ぎている極端な考え方かもしれません。 しかし、リチャード・ストールマンはこういった懸念を真剣に考え、憂慮し、行動に移しました。 リチャード・ストールマン(Richard Matthew Stallman、アカウント名はRMS、1953年3月16日 ー )は、MIT AIラボ出身のハッカーであり、フリーソフトウェア運動の導師(グル)である。80年代以降、妥協を許さない原理主義的態度でユーザーのソフトウェア利用の自由の権利のために、運動を推進した。多くのハッカーたちから熱狂的な支持を得る一方で、現実主義的なスタンスのオープンソース陣営からは距離を置かれもしたが、現在多くのユーザーが彼の実績の恩恵を受けている。特にGNU/Linuxとして結実した数多くのフリーソフトウェア群と、コピーレフトという概念を制度化したGPL(一般公衆利用許諾書)の制度設計は、シェアリングエコノミーの先駆けとして今後将来まで大きな意味を持つだろう。 リチャード・ストールマンは、凄腕ハッカーでフリーソフトウェア活動家で、多くの有用なフリーソフトウェアを開発し、コピーライトの逆の概念である「コピーレフト(copyleft)」という考え方を広めた思想家です。 コピーレフト(英:copyleft)とは、著作権(英:copyright)に対する考え方で、著作権を保持したまま、二次著作物も含めて、すべての者が著作物を利用・再配布・改変できなければならないという考え方です。 リチャード・ストールマンは、コピーレフトの考え方に基づいて、営利企業が開発し販売するソフトウェアを、新たにフリーソフトウェアとして書き直し、ソースコードを配布してユーザーに開放していきました。急進的なハッカーたちから尊敬を集め、時には行き過ぎているとして敬遠され、事業家からは夢想的な共産主義者であるとして毛嫌いされてきました。 リチャード・ストールマンは、全てのプログラムは自由に利用できるべきだと考えています。プログラマにとってプログラムを加工したり、共有したりすることは、私たちに与えられている言論の自由(フリースピーチ)と同等の権利であると考えているのです。プログラマにとって、プログラムを読んだり書いたり転写することは、会話をすることに等しいほど日常的で当然の権利だと考えたのでした。 私たちの身の回りにある無数のアプリケーションやソフトウェアは、元々ソースコードという一種の言語によって書かれています。ソースコードであればプログラマたちは読み書きすることができますが、コンパイルされて0と1の羅列であるバイナリ表記に変換されると、読むことも困難で、書き換えることは現実的に不可能です。 しかし、企業が開発している私有ソフトウェアの多くは、ソースコードは隠蔽され、バイナリ表記の状態で流通しています。私たちは、たとえソフトウェアが生活に不可欠なものであったとしても、その中身を見ることも知ることもできないのです。つまり、そこは外部からは立ち入ることのできない不可侵的な秘密の領域となります。 リチャード・ストールマンは、未来がコンピュータの時代になることを確信した上で、ユーザーが私有ソフトウェアによって行動が制限され縛られてしまうことを危惧し、ユーザーの自由と創造性のために「フリーソフトウェア」という考え方を広める活動を、たった1人で始めました。 <フリーソフトウェアの条件 4つの基本的自由 > プログラムのユーザーが次の4つの必須の自由を有するとき、そのプログラムはフリーソフトウェアである: * どんな目的に対しても、プログラムを望むままに実行する自由 (第0の自由)。 * プログラムがどのように動作しているか研究し、必要に応じて改造する自由 (第1の自由)。ソースコードへのアクセスは、この前提条件となります。 * 身近な人を助けられるよう、コピーを再配布する自由 (第2の自由)。 * 改変した版を他に配布する自由 (第3の自由)。これにより、変更がコミュニティ全体にとって利益となる機会を提供できます。ソースコードへのアクセスは、この前提条件となります。 (原文) The four essential freedoms A program is free software if the program's users have the four essential freedoms: * The freedom to run the program as you wish, for any purpose (freedom 0). * The freedom to study how the program works, and change it so it does your computing as you wish (freedom 1). Access to the source code is a precondition for this. * The freedom to redistribute copies so you can help others (freedom 2). * The freedom to distribute copies of your modified versions to others (freedom 3). By doing this you can give the whole community a chance to benefit from your changes. Access to the source code is a precondition for this. (Free Software Foundation, Inc., " What is free software? ", https://www.gnu.org/philosophy/free-sw.html ) リチャード・ストールマンは1984年から完全にフリーソフトウェアで構成されているオペレーティングシステム「GNU(グヌー)」の開発を始めました。 (オリジナルのUNIXシステムがAT&Tによって商用化された、つまり私有ソフトウェアとなったことが契機となった。“GNU”という名称も、“GNU's Not Unix”(GNUはUnixではない)の再帰頭字語となっている。) そして、GNUをフリーソフトウェアとして確立するために、リチャード・ストールマンはGPL(General Public License、一般公衆利用許諾書)という仕組みを導入しました。 GPLは、コピーレフトの考え方を具体化した仕組みで、著作権(コピーライト)を通常の使い方とは逆向きに活用します。つまり、著作権は著作権者以外の著作物の改変、複製、配布、販売を制限するのに対して、コピーレフトは著作権者はそのコピー(複製物)の受取人に対して著作物の改変、複製、配布の自由を保証し、そのことを永久に撤回しないことも表明します。そして、コピーレフトのライセンスが適用された著作物は、それを改変してつくられたもの(二次著作物)に対しても、コピーレフトが適用されます。  GPLは慣習的だったハッカー倫理を、極めてラジカルに制度化したものだとも言えるでしょう。 GNUプロジェクトは、コピーレフトという法的概念を用いて、多くの有益なフリーソフトウェアを開発していきました。Emacs(プログラミングに特化したテキストエディタ)、gcc(C、C++のコンパイラ)、bash(いま現在最も標準的なシェル)などが代表的なプログラムです。 そして、開発が遅れていたカーネル(OSの中核となるプログラム)をリーナス・トーバルズがLinuxカーネルとして開発すると、GNUプロジェクトのソフトウェアコレクションとLinuxカーネルが結合し、GNU/Linuxとしてフリーソフトウェアのオペレーティングシステムが完成することとなりました。 リチャード・ストールマンの思想には賛否両論はありますが、多くのプログラマが指摘している通り、彼のフリーソフトウェア運動がなければ、私たちはコンピュータ利用の入口であるオペレーティングシステムの中身を知ることはできなかったでしょう。 また、サイバー空間におけるユーザーの自由はもっと制限されたものとなっていたでしょう。 現代のビジネスを動かしているプログラマたちの考え方の一部には、このような考え方に少なからず影響を受けている部分がまだ残っています。 私たち現代の企業家は、プログラマたちの哲学、コンピュータの概念構造、そしてネットワーク社会に作用している力学を理解した上で、ビジネスシステムを構想し、実現していく必要があります。 >はじめから読む 参考文献: 『UNIXプログラミング環境』 The UNIX Programming Environment Brian W. Kernighan, Rob Pike 1984 『プログラミング言語C 第2版』 The C Programming Language, second edition Brian W. Kernighan, Dennis M. Ritchie 1988,1978 『プログラミング作法』 The Practice of Programming Brian W. Kernighan, Rob Pike 1999 『UNIXという考え方』 The UNIX Philosophy Mike Gancarz 1996 『コンピューターシステムの理論と実装』 THE ELEMENTS OF COMPUTING SYSTEMS: Building a Modern Computer from First Noam Nisan, Shimon Schocken 2005 『思考する機械』 THE PATTERN ON THE STONE: The Simple Ideas That Make Computers Work ダニエル・ヒリス 1998 『通信の数学的理論』 THE MATHEMATICAL THEORY OF COMMUNICATION クロード・E・シャノン 1949 『サイバネティックス』 CYBERNETICS: or control and communication in the animal and the machine, second edition ノーバート・ウィーナー 1948,1961 『統辞構造論』 SYNTACTIC STRUCTURE, 2nd edition ノーム・チョムスキー 1957,1975 『フラクタル幾何学』 The Fractal Geometry of Nature B.マンデルブロ 1977,1982,1983 『ハッカーと画家』 Hackers and Painters: Big Ideas from the Computer Age Paul Graham 2005 『伽藍とバザール』 The Cathedral and the Bazaar Eric S. Raymond 1997 『人月の神話』 THE MYTHICAL MAN-MONTH: Essays on Software Engineering, Anniversary Edition, 2nd Edition フレデリック・P・ブルックス,Jr.  1975,1995 『それがぼくには楽しかったから』 Just for Fun: The Story of an Accidental Revolutionary リーナス・トーバルズ、デイヴィッド・ダイアモンド 2001 『思考スピードの経営』 Business @ the Speed of Thought ビル・ゲイツ 1999 『情報経済の鉄則』 Information Rules: A Strategic Guide to the Network Economy カール・シャピロ、ハル・ヴァリアン 1999 『レイヤー化する世界』 佐々木俊尚 2013 『場のマネジメント』 伊丹敬之 1999 『モジュール化』 青木昌彦、安藤晴彦 編著 2002 『モジュール化時代の経営』 Managing in an Age of Modularity カーリス・Y・ボールドウィン、キム・B・クラーク 1997 『発展する地域 衰退する地域』 CITIES AND THE WEALTH OF NATIONS: Principles of Economic Life ジェイン・ジェイコブズ 1984 『現代の二都物語』 Regional Advantage: Culture and Competition in Silicon Valley and Route 128 アナリー・サクセニアン 1994 『フリーソフトウェアと自由な社会』 Free Software, Free Society: Selected Essays of Richard M. Stallman Richard M. Stallman 2002

  • 起業家に必要な3つのクリエイティブ・スキル

    |旧経済から新しい経済軌道への転換の推進者 クリエイティブというと、一般的には感性に基づく活動、もしくは感性に訴えかける活動を指し示していることが多いのではないでしょうか? しかしながら、本稿はそのような意味合いでのクリエイティビティについての説明を試みようとするものではありません。 なぜなら、感性というものは経済発展の機構としての起業家に求められる機能の本質とは異なり、企業経営という視点からは説明できない要素だからです。ですから、起業家の感性面でのクリエイティビティについての考察は他に譲り(そして、熱意や忍耐といった精神論を可能な限り避けて)、本稿においては、より実務的な側面から、起業家が経済発展の実現のために要求される実務的なクリエイティブ・スキル(創造力)について説明します。 起業家(企業家、企業者、アントレプレナー)は資本と生産力とを新たに結びつける、経済発展の実現に欠かすことのできない重要なひとつの機構です。いわゆる経営管理者とも異なります。経済発展の一機構としての起業家には、ほかの経済主体では代替のきかない機能があります。その機能がゆえに起業家は一般的な経営管理者とは区別され、特別な役割を担うこととなるのです。起業家が担う特別な役割とは、現状の打破であり、既存の慣性的軌道から新たな軌道への転換です。 そして、経済発展の機構としての起業家は、個人の職種や役職、肩書きとも一切関係がありません。ベンチャー企業の創業者の場合もあれば、大企業の事業責任者の場合もあり、非営利団体のマネジャーの場合もあれば、病院の医師であることもあるかもしれません。つまり、単純に一企業の創立者、創業者=起業家ということではなく、あくまで起業家とは変革の担い手であり、旧経済から新しい経済軌道への転換の推進者のことをそのように呼ぶということを理解する必要があります。 本稿では、旧経済から新しい経済軌道への転換に欠かすことのできない起業家独自の特殊な機能を獲得するために必要な3つのクリエイティブ・スキルについて説明します。 |価値創造のスキル まず、起業家に求められていることは価値を生み出すことであって、 最先端のテクノロジーを発明することでも、精緻な業界分析に基づいた戦略によって競合他社を打ち負かすことでもないことを肝に銘じる必要があります。むしろ、技術への過信、競争への執着は、起業の阻害要因になることが多いことを念頭に置く必要があります。 当然ながら、価値があるからこそ社会から必要とされます。価値がなく必要とされなければ、商品や組織はその存在理由を失います。 では、起業家はどのようにして価値を生み出すことができるのでしょうか? そもそも、価値とは一体何なのでしょうか? 起業家が生み出すことを求められている価値は2種類あります。ひとつは経済的価値であり、もう一方は倫理的価値です。 経済的価値とは「顧客が得る効用」に対して支払われる「対価」であり、支払われる金額から見込費用を差し引いた「利潤」の総和が企業そのものの価値「企業価値」として集約されます。これらの経済的価値は、円環するように等価的な結びつきがあります。 倫理的価値とは哲学分野においても多く語られる「物事の判断基準」であり、集団にまとまりを与えるために必要不可欠な要素です。 起業家が創造すべき「経済的価値」、すなわち利潤を生み出す方法は理論上、実はかなり限られています。というのも、完全競争下においては(インターネットの世界的普及にともない現実社会も以前より、個別市場においては完全競争により近い環境になっているようにみえる)、通常の経済活動における利潤は、競争や生産の増加、経営の効率化によって均衡し、消滅してしまうからです。 このことは、楽天、アマゾンなどのECを想像すると分かりやすいでしょう。例えば、あるECアパレルショップが特定ブランドのシャツを当初十分な利益を見込んだ価格設定で販売し、予想以上の販売実績をあげ十分な利益を得たとしましょう。しかし、おそらく数週間後には他の多くのECアパレルショップがこれに追随し、販売価格は下落します。最終的には原価と送料とその他の販売管理費をまかなう程度にまで価格は引き下げられることでしょう。 このような完全競争下での経済活動であっても、大企業などの既存企業は生産設備への投資による効率化、ブランド力などの他社に対する優位性や参入障壁によって、ある程度の利潤を確保することができるかもしれませんが、今まさに新たな事業を起こそうとしている起業家にとってはそのようなやり方は望むべくもありません。既存企業と同じ方法では、新企業は事業の継続すらままならないでしょう。 では、起業家は顧客が得る効用であり、利潤をどのように創造すれば良いのでしょうか? その答えこそ、イノベーション(新機軸、新結合の遂行)にあります。 イノベーションについて最初に体系的に理論化した20世紀初頭の経済学者ヨーゼフ・シュンペーターによれば、起業家が経済発展を実現し利潤を獲得するためには(つまり「新結合の遂行」=イノベーションには)、次の5つの方法があるとしています。 1. 消費者にまだ知られていない商品・サービス、あるいは新しい品質を備えた商品・サービスを生産する 2. 新しい生産方法、すなわち業界において未知な生産方法を導入する 3. 新しい市場を開拓する 4. 原料あるいは半製品の新しい供給源を獲得する 5. 新しい組織を実現する、すなわち独占を形成あるいは独占を打破する。 これら5つの新結合の遂行には、いままで見過ごされていた(認知されていない)顧客の欲求を満たすために、商品・サービスの新たな提供方法、あるいは生産設備や資源、労働力の新たな組み合わせを実現するという共通点があります。 新結合の遂行にあたっては、新企業はビジネスモデルを従来の既存企業とは異なる形で組み上げ、市場に新たなルールを持ち込むため、いわば擬似的な独占状態になります。既存企業が新企業に対抗または追随するにしても組織・ビジネスモデルの変更に時間を要し、前述の完全競争下における経済活動のように、瞬時に新企業の利潤が消滅してしまうことはありません。 この持続性のある利潤こそが起業家にとって目標となる利潤、「企業者利潤」です。 起業家は経済的価値という側面においては、新結合の遂行によって顧客価値を創造し、瞬間的でなく持続性のある利潤を実現し、その総和としての企業価値を創造する必要があります。当然ながらこれらの経済的価値を生みだすことなしに、企業は事業を継続していくことはできません。 起業家が創造する必要があるもうひとつの価値、「倫理的価値」はこの場合、企業のビジョン、ミッションよりも幅広い意味を持っています。それは「重要なことや優先すべきことを判断するための評価基準」、つまりその企業独自の「価値基準」だといえます。 起業家が新たに起こす新企業は、従来とは異なるやり方で事業を推進していくため、いわば逆流の中を泳いでいくために、熱烈な思想性を組織内外で共有する必要があります。 組織内にあっては、新企業はいわば道なき道を進んでいくために、経営者、マネジメントチーム、従業員は皆、旧企業であれば慣習的に取り組んでいる業務であっても、次から次へと発生する新たな課題に対しての意思決定を要求されます。 その際にどのような価値基準で物事を考えるべきなのかを、起業家はあらかじめ設定しておく必要があります。 組織外にあっては、新企業が顧客に提案する価値が従来のものと比べ斬新なものであればあるほど、顧客は当初懐疑的になりがちです。それは、顧客は新しい価値を判断するための比較尺度がないために、混乱している、もしくは判断を保留しているからだといえるでしょう。価値基準が示されていない場合、提案された価値の存在に気づかないことすらあります。ときには、反発すら受けることも覚悟しておく必要があるでしょう。 起業家はマネジメントチーム、従業員、顧客、あるいはステークホルダーに対して、明瞭に新たな価値基準を提示する必要があります。起業家は組織の内外に新たな価値基準を示し、集団に方向性を与えて導くことが求められているのです。 これまで述べてきたように、起業家はまず第一に価値を創造する必要があります。それは新結合の遂行の結果としての「企業者利潤」であり、組織内外の円滑なコミュニケーションのための「価値基準」に代表されます。 価値創造にあたって起業家の成果は「洞察」にかかっています。 それはつまり、事態を見通す能力だといえるでしょう。人々が行動の基準となる根本原則についてなんの成算ももちえない場合においてすら、またまさにそのような場合においてこそ、本質的なものを確実に把握し、非本質的なものをまったく除外するような仕方で事態を見通す能力が必要とされているのです。 <まとめ> ◆新結合を遂行し企業者利潤を生みだす ◆自社固有の価値基準を設定する |信用創造のスキル 起業家に求められている第2のクリエイティブ・スキルは、信用創造のスキルです。 信用創造は一般的には、銀行の機能として説明されることが多いですが、本稿では信用創造のもう一方の当事者である企業家(起業家)に焦点をあわせて考察を進めていきましょう。 信用によって、起業家は計画の実行に必要なリソース(経営資源)の調達が、はじめて可能となります。 そもそも起業家は、起業に際して一切の資本、生産手段を持ち合わせていません。仮に相続または不動産収入などによって資本を持ち合わせていたとしても、それは彼の資本家的側面なのであって、起業家の本質について説明を試みるのであれば、一切の資本を持ち合わせていないことを前提とする必要があります。生産手段についても同様に、仮に既に掌握している生産手段があったとしても、その生産手段はいま現在、旧経済に組み込まれ運用されているため、新企業で活用するとなれば、新たな活用方法のためにそれを新企業のために移動させてくる必要があります。つまり、新企業のためにあらかじめ活用可能な状態で待機している生産手段があるわけではないのです。 起業家は、事業を新たに起こす際に、一切の資本、生産手段を持ち合わせていないとすれば、一体どのようにして新たな価値を世に送り出せばよいのでしょうか? 商品・サービスをまずは家内制手工業的に生産し徐々に事業を大きくしていくのでしょうか? 否、例えそのように事業を立ち上げたとしてもいずれ事業の本格的な展開にあたっては追加の経営資源を必要とすることになります。周知の通り、売上が拡大する時期には現金が手元に入る前に追加で必要となる運転資金、設備資金が増加するため、キャッシュフローは一旦マイナスになります。 つまり、家内制手工業的な立ち上げでは、持ち合わせの資本がない場合、事業を拡大することはできないのです。利益剰余金を徐々に蓄積していくというやり方では、家族商店経営のような事業規模でしか成り立ちません。 事業を商業化するためには、価値創造に必要な、つまり新結合の遂行に必要な、生産手段を旧経済から引き抜いてくる必要があります。 生産手段とは、新たな価値を生み出す労働力、生産設備などの経営資源です。 資本とは、起業家にとって新たな価値を生み出す生産手段の獲得のための「購買力」だといえます。 起業家は、資本家(金融機関、投資家)に対して新たな信用の供与を促し、資本(借入金、資本金)を動員することで購買力を得て生産手段を獲得し(つまり新結合を遂行して)、生産手段を従来より生産性の高い新たな活用方法によって運用することによって経済発展を実現するのです。 起業家は信用供与を受けて事業資金を調達し購買力を得ます。しかも起業家は先に述べたようにあらかじめ十分な自己資金の準備があること、担保の材料となる資産等を所有していることは条件ではありません。生み出すであろう「将来価値」を評価し、それを見込んで必要な資金を調達します。それが「信用創造」です。 信用創造に際して、新企業が将来生み出すであろう価値を資本家に明瞭に示すことが起業家には求められます。 <まとめ> ◆資本、借入によって購買力を得て、生産手段を獲得する ◆事業が生み出す将来価値を明瞭に示す |知識創造のスキル 起業家に求められる第3のクリエイティブ・スキルは、知識創造のスキルです。 先に述べた価値創造スキルはいわば「ビジネスモデルの構築に関するスキル」、信用創造スキルは「資源の調達に関するスキル」と言えます。 知識創造スキルは「企業の持続的発展に関するスキル」です。あるいは「組織構築に関するスキル」だとも言えるでしょう。 知識創造は、価値創造についての考察で述べた「新結合の遂行」に際しても、いわば接着剤としても重要な役割を果たします。単純に権利関係上だけで、ある経営資源と別の経営資源をとってつけたところで何ら新しい価値が生まれてくることがないことは自明でしょう。新しい価値を生みだすためにはお互いの活動を統合する要素が必要となります。経営資源または新しいプロセスをつなぎ合わせるときに、媒介となるのが「知」です。 起業家は価値創造の実現のため、また価値創造の連続的なサイクルを生み出すため、あるいは次から次へと現れる新興サービスや競合、予想外の突発的市場の変化に対応するために、起業家自身のインスピレーションによる初期衝動的な知のみならず組織的に知識を増幅していく相互作用集団をつくる必要があります。 つまり、起業家は新企業の業績面だけではなく、学習機会をマネジメントしていく必要があるのです。 知識創造プロセスの構築によってもたらされる無形の知識資産の蓄積は(または知識創造プロセスそのものは)、競合他社、模倣的追随者から外形上は把握し難いため、容易には複製・模倣されることのできない企業の競争力の核心的な源泉となりえます。 知識創造プロセスにおいては、厳密なデータ、科学方程式、明示化された手続きなど言葉や数字で表すことのできる「形式知」と、職人的技術、勘、直感などの「暗黙知」の2つの異なる知識のダイナミックな相互作用が鍵となります。 形式知は明示的で論理的言語によって伝達のできる知識です。一方、暗黙知は言葉にならない知識で、他人に伝えることが難しい知識です。知識創造プロセスにおいては、組織または個人に蓄えられている暗黙知を組織全体で共有するために形式知に変換することが特に重要になります。 暗黙知から形式知へ、形式知から暗黙知へ、そしてまた反復し新たな経験を加えて形式知へと、このような連続的なスパイラルによって、組織の知識を高めていきイノベーションを生み出すプロセスを、野中郁次郎と竹内弘高はSECIモデルとして1991年に発表しました。「知識創造」というコンセプトによって日本企業が連続的にイノベーションを生みだす原動力を解き明かし、世界的に高い評価を受けています。 ・共同化 暗黙知を、言葉を使わずに例えば経験などを通じて、暗黙のうちに共有すること。相互作用の「場」作り出すことが引き金となる。 ・表出化 メタファー、アナロジーなど特別な言葉を用いて暗黙知を形式知に変換すること。物事のある側面をより具体的なイメージを喚起する言葉で置き換え簡潔に表現することで「対話」をうながし浮かび上がらせる。 ・連結化 正式に形式化した知識を結びつけ、人から人へと伝えること。異なる部門、または外部と知識を交換、統合することによって引き起こされる。 ・内面化 「行動による学習」を通して形式知を暗黙知へと変換すること。ユーザーの反応をすばやく取り入れながらバージョンアップしていく手法も内面化を促進する。 起業家は知識創造プロセスを新企業に組み込むことによって、革新性をより強固なものとし、再び次のイノベーションを生み出す基盤とすることが求められています。 起業に際してチームが必要となる理由は、単純に労働力を必要としているためではなく、知識創造プロセスを回転させるためといえるでしょう。 <まとめ> ◆学習機会をマネジメントする ◆組織の形式知、暗黙知の相互作用を促す 起業家は、以上に述べた価値創造、信用創造、知識創造の3つのスキルを用いて、旧経済から新しい経済軌道への転換への突破口を切り開き、均衡から発展へと経済を導く役割を担っています。 参考文献: 『経済発展の理論』 THEORIE DER WIRTSCHAFTLICHEN ENTWICKLUNG, 2. Aufl.,1926 ヨーゼフ A. シュンペーター 1912,1926 『C・クリステンセン 経営論』 Harvard Business Review Clayton M. Christensen on Innovation クレイトン M. クリステンセン 1995,1997,2000,2003,2005,2006,2008,2009,2010,2011,2012 『知識創造企業』 The Knowledge-Creating Company: How Japanese Companies Create the Dynamics of Innovation 野中郁次郎、竹内弘高 1995

  • 共有型経済の出現とシミュレーショニズムの戦略

    現代社会は大きな転換点にあります。 いまIoT(Internet of Things = モノのインターネット)やAI(人工知能)などのテクノロジーの飛躍的発展を背景に、従来の経済システムとは異なる新たな経済システム = 共有型経済《シェアリングエコノミー》が出現しつつあります。 IoT(モノのインターネット)によって、あらゆるモノとすべての人がインターネットを通じて直接的に結びつけられようとしています。 人と人、人とモノ、モノとモノ、過去と将来予測、住居、空間、健康、エネルギー、移動、輸送、技術、消費、生産、リサイクルシステム…ありとあらゆるものがネットワーク上でつながり、リアルタイムで様々なビッグデータを供給、取得そして解析し、AI(人工知能)によって最適化され、相互にアクセスし交流する社会が実現しようとしています。 第4次産業革命とも呼ばれる、このIoTの爆発的拡大《IoT革命》によって、社会構造も大きく変わっていくことが求められています。 IoTの普及拡大によってもたらされる経済システムの変化、それにあわせたビジネスモデルの変化、そしてその変化のための戦略と組織について考えてみましょう。 |資本主義経済から共有型経済への転換 資本主義経済とは、所有の囲い込みによる資本の拡大とさらなる競争のパラダイムだといえる。資本主義経済においては、所有権を根拠とした垂直統合型のビジネスモデルが成功を収め、生産力の飛躍的な拡大を実現した。主たるマネジメント方法は、計画・統制・管理といった方法が用いられる。 従来の社会では、経済システムは主に市場型資本主義経済によって運営されています。資本主義経済システムでは、生産手段は資本によって所有され、他の資本との競争を経て資本の拡大を目指します。 その経済システムに最も適合したのは、中央集権的な垂直統合型のビジネスモデルでした。自動車メーカーや電機メーカー、エネルギー企業、製薬会社、運輸会社などが垂直統合型ビジネスモデルを採用し、大きな設備投資を必要とする事業において「規模の経済」を十分に働かせて、圧倒的な効率化と生産性の拡大を実現しました。 しかし同時に、資本主義経済によってもたらされた大量生産、大量消費社会は、地球温暖化、海洋のゴミ問題など生物圏に悪影響をもたらすこととなりました。 また資本主義経済システムは、その圧倒的な効率化と生産性の拡大、技術革新、市場取引による価格競争、さらにいまIoTの普及による《シェア》、《フリー》という概念の広がりによって、製品サービス価格を急速に下げてきています。 そのことによって企業は従来の大量生産、大量消費型のビジネスモデルから利潤を得ることが難しくなってきています。利潤を得るためには、モノの生産、サービスの提供のみならず社会的イノベーション(=社会的価値の創造)を実現していく必要があります。 従来型社会はまず1つは生物圏の持続可能性のため、そして2つめにテクノロジーの進化に合わせてより素早く社会的イノベーションを実現していくために、基本構造の見直しが必要とされています。 共有型経済とは、解放されたリソースへのアクセスによる新たな結合と持続可能なコミュニティ生成のパラダイムといえる。境界をまたぐ越境的コラボレーションによってイノベーションを実現する水平協働型のビジネスモデルが新たな価値をつくり出していくだろう。 IoT革命後の社会は、経済システムは資本主義経済と共有型経済の二つの経済圏が共存するハイブリッド経済となると考えられています。実際に、すでに経済活動の一部は共有型経済に移行しています(辞書市場におけるWikipedia、サーバーOS市場におけるLinuxなど)。 共有型経済システムでは、生産手段は特定の経済主体に占有されず、利用者または参加者によって共同で管理されます。 そのため共有型経済においては、共同管理していくのに適した、ヨコのつながりで広がるコラボレーションに基礎を置く分散した水平協働型のビジネスモデルが中心となっていくと考えられています。 水平協働型のビジネスモデルによって推進される共有型経済システムというコンセプトは、従来型の資本主義経済システムの拡大にともなって表面化した矛盾が引き起こしている「社会的課題の解決」と、「新しい価値の創出」という2つの点において、新たな視点を提起しています。 |モノのインターネットによって解放されるリソース いま、IoTの普及によって、政府、企業、個人の持つ様々なリソース(資源、私有財産=私有制度によって守られた排他的使用権)が解放されていこうとしています。人々はいままで、必要なモノを必要でない時も含めて所有することによって使用権を確保してきました。しかし今後IoTによって、必要なモノに必要な時にアクセスし最適なタイミングで一時的に使用することが可能になっていきます。 逆に、自ら所有しているリソースを自分が使わない時には、インターネットを通じて必要な人々に開放することによって、余剰キャパシティを有効活用してもらうことができます。 資源(リソース)をいま必要とする人と、いま必要としていない人がIoT(モノのインターネット)のインフラ上で、AIによる最適化を経て、マッチングされ資源の”物質的な”潜在的生産性(フルポテンシャル)が引き出されることとなります。 リソースが解放されることによって、個人または比較的規模の小さい企業も、必要に応じて生産手段にアクセスして活用することが可能になります。IoTのインフラが、生産のためのインフラとしても機能していくのです。3Dプリンターなどの新技術の普及も「生産の大衆化」を後押しし、消費者は生産能力を備えた「生産消費者(プロシューマー)」へと変容していきます。(Youtuberが典型的な例。かつては電波放送局が寡占的にやっていたことを、個人がYouTubeというプラットフォーム上でモバイル通信端末を用いて行っている。) 資本主義経済は、資本による生産手段の囲い込みから始まりました。しかし今、IoT革命によって生産手段を再び手にした個人または小企業は、用途目的にあわせたプラットフォームを形成し、独自の自主的なルールに基づいて協働し始めています。このプラットフォームが共有型経済の基盤となるのです。 Raspberry Pi(ラズベリーパイ)は、ARMプロセッサを搭載したシングルボードコンピュータ。イギリスのラズベリーパイ財団によって開発されている。小型で価格も25米ドルと安価なため、IoTに接続しモノに取りつけられたセンサーと連携して、遠隔制御することも可能。スペックは決して高くないがRaspbian(Unix系)などの専用OSなども充実している。 |エネルギーインターネットがもたらす安価なエネルギー IoTが社会にもたらす変化はリソースの解放だけではありません。IoTは分散した再生可能エネルギーとも接続され、エネルギーインターネットの構築をもたらします。企業または個人は個別に、自宅の屋根で集める太陽光エネルギー、自社のビルの壁沿いに吹き上がる風、オフィスの下の地面から伝わる地熱、自宅のキッチンでバイオマスエネルギーになる生ゴミなどからエネルギーを採取し、獲得したグリーンエネルギーをインターネットで自由に相互に交換しあい、ほぼ無償に近い安価なエネルギーを自由に利用できるようになります。 再生可能エネルギーに対しては、まだ懐疑的にみる向きも多いですが、再生可能エネルギーの発電効率は指数関数的に高まってきており、電力価格も急激に下がってきています。2040年には世界の再生可能エネルギーの発電量が化石燃料による発電量を含めた全体に占めるシェアは34%に達するとみられています。先進国においては、より高い比率になるでしょう。 ドイツでは再生可能エネルギーの比率を2050年には80%以上に拡大するという意欲的な目標を設定しています。 小型の電力バッテリー、ワイヤレス充電の技術の開発を通じて、IoTデバイスへの電力供給という課題もここ数年で解消されるでしょう。 |金融インターネットによる自由な資金調達 リソースが解放され、安価なグリーンエネルギーを利用できるようになる個人と企業は、さらに現在構築がすすむ金融インターネットとでも言うべきフィンテック(ファイナンス・テクノロジーの略語)に資金供給面でも支えられ、イノベーション活動に注力していくことになります。 フィンテックの普及により企業と個人は信用力に応じて、従来の金融システムの形式にとらわれずに、より自由に資金調達プロセスの設計を行うことが可能となります。資金の需要者(企業家)と供給者(投資家)が直接つながり、既存の仲介者(金融機関)のやり方にとらわれる必要がなくなるためです。 いまは投機商品として注目を集めているビットコインなどの仮想通貨も、本来はインターネット上での安全で自由な資金決済と、国境などの物理的・制度的な境界を越える臨機応変な資金移動(資金供給・資金調達)を可能にする設計思想をもったフィンテックです。 現在、仮想通貨だけでなく、クラウドファンディングやソーシャルレンディング、そしてマイクロファイナンスなど、新興企業による多種多様な金融サービスが立ち上がりつつあります。 日本最大の仮想通貨取引所ビットフライヤー(東京都港区)のWebサイトでは、世界のどこかで送金や支払いなどに実際に使われたビットコインの取引をリアルタイムで可視化したコンピューター・グラフフィックス、「チェーン・フライヤー」を見ることができる。仮想通貨は銀行を介さないP2Pの直接金融を可能にする。現在、ビットコイン以外にもイーサリアムなど924種類の仮想通貨がある(2017年11月3日、現在)。 |3つのインターネットと水平協働型ビジネスモデル 《モノのインターネット》、《エネルギーインターネット》、《金融インターネット》の3つのインターネットのインフラが整うと、既に構築済みのコミュニケーションインターネットとあわさって、いよいよ本格的に共有型経済が実現します。 個人または小企業も「潤沢なリソース」、「安価なエネルギー」、「自由な資金調達」の利用が可能となり組織、業種、業界、国の垣根を越えて必要なリソースに自在にアクセスすることによって生産力を獲得し、自らのビジョンの実現と社会的課題の解決に同時に取り組んでいくことになります。 3つのインターネット・インフラを通して、分散した資源・エネルギー・資金にアクセスして、越境的に新たな価値を生み出していくために、最適なビジネスモデルが水平協働型ビジネスモデルです。 水平協働型ビジネスモデル企業は、社会的課題の解決のために、自社のバリューチェーン(価値連鎖)とケイパビリティ(企業の組織的遂行能力)を所有に縛られずに社外資源に越境的にアクセスすることによって、臨機応変に編集、再合成します。 垂直統合型企業が長期所有による巨大な設備投資の回収という前提条件に縛られているのに対して、水平協働型企業はアウトソーシング、シェア、素早い参入と撤退、ライセンス、オープンソース、フリー、クラウド、提携、資本参加、ジョイントベンチャーといった手法を駆使して自由に外部資源にアクセスすることによって、スピーディーに環境変化に適応することができます。 水平協働型企業群は分散・協働・水平展開というインターネットの特性と親和性の高い構造をつくり、インテグレーション(統合)とアンバンドリング(分離)の組み合わせによって自社の戦略を決定する。 水平協働型企業は、越境的コラボレーションを繰り返しながら、自らのケイパビリティ(企業の組織的遂行能力)もたえまなく編集、再合成し、それぞれが多様な社会関係性のネットワークにおけるひとつの結節点(ノード)として機能します。 |持続する優位性よりも継続的なアップデート 共有型経済が実現するにつれて、企業は外部の資源を一時的に借用《シェア》して活用する機会が増えてきます。企業の資源も外部に対して、より開放《オープン》されていくことになるでしょう。 企業はいままでは自社固有の資源の活用と強化を図り、他社との差別化を図ってきました。独自の資源をより強みが発揮できるよう足場を固め、競争力を育み、参入障壁を築いて他社を寄せ付けないようにしていました。このような垂直統合型の戦略は、「持続する競争優位」というコンセプトと結びつけられ、長らく経営戦略の中心に位置付けられてきました。 しかし「持続する競争優位」というコンセプトはいま、IoTの実現によって「アクセスによる継続的なアップデート」へと主役の座を譲ろうとしています。 「所有からアクセスへ」と経済活動の軸が移ろうとしている中で、企業はどのように戦略を組み立てていけばよいのでしょうか? 物理的にモノを生産することを通じて価値を生み出すことが難しい状況の中で、いかにして企業は価値を創造していけばよいのでしょうか? |変化を常とする、シミュレーションの戦略 ここにひとつの戦略コンセプト、《シミュレーショニズム》を紹介しましょう。 シミュレーショニズムは、1980年前後の前衛芸術とクラブミュージックによって具体化された表現形式であり思考体系です。 優れた芸術や音楽は、社会の未来の姿を先取りしていて、そこには現代社会が抽象化された形式を垣間見ることができます。創造するという行為の根源的な形がそこにはあるからでしょう。 1970年代の後半までに、絵画や彫刻といった近代芸術の根幹をかたちづくる表現形式は、あらゆる表現が試み尽くされ、もはや絵を描いたり石を刻んだりといった原初的な行為を通じては、すでに誰かが試みたことの二番煎じとなってしまい、真にオリジナルな作品を創造することは不可能ではないかと思えるようなところまできていました。 音楽も同様に、あらゆるコード進行とメロディーが出尽くし、どの曲もかつてどこかで聞いたことがあるという感覚を抱いてしまうという状況でした。 そのような中、突如新しい表現の潮流がジャンルを越えて現れてきました。 それらの表現方法は 「シミュレーション(模擬実験)」、 「アプロプリエーション(盗用)」、 「サンプリング(標本抽出)」、 「エディット(編集)」、 「リミックス(再合成)」 などと呼ばれ、既存の作品を大胆に分解、流用し、新たに組み合わせ、編集をおこない自らの表現として再構築するというものでした。これらの手法は、複製技術の進歩にともなって(カメラ、コピー機、レコードやカセットテープ、データ転送、変換など)、様々な表現ジャンルで同時多発的に現れてきました。 シミュレーショニズムの手法は、オリジナルの持つ“唯一性”というジレンマ、歴史的正統性といった閉塞感を打ち破り、リソースを解放しようとするマイノリティーの主流に対するアンチテーゼだったといえます。マイノリティーがゆえに既成概念にとらわれず、急速なテクノロジーの進化にともなって生まれつつあった新しい物事のとらえ方、視点を自由に表現できた結果であるともいえるでしょう。 シミュレーショニズムは、オリジナルの不可侵性を軽やかに乗り越え、歴史的必然性などの“しがらみ”を相対化し、操作対象となる既存の作品を絵具や画材、楽器などと同じひとつの素材として実際的に活用し、従来とは全く異なるコンテクスト(文脈や背景)に流し込んでしまいました。そして、少しずつ変化しながら反復を繰り返すことによって強度と精度を高めていきました。 マイク・ビドロのアトリエ。巨匠たちの代表作が「アプロプリエーション」され所狭しと無造作に並び、ありえない光景をつくりだしている。マイク・ビドロは世紀の大名画を絵具やキャンバスと同じ「素材」として扱うことに成功した。ビドロはオリジナルとコピーとの間にある社会関係性を作品にしたといえる。代表作はThis is not a Picasso(これはピカソではない)。 シミュレーショニズムの越境的な戦略が最も顕著に具現化されたのが、音楽の領域です。音楽は表現の中で最も、新しいテクノロジーに対して積極的にその可能性を取りこもうという意欲の高い領域で、テクノロジーの進化の影響が大きいためでしょう。 いまでは私たちが日頃耳にするほとんど全てのポピュラーミュージックがサンプリング・ミュージック(つまりシミュレーション)だと言っても過言ではないほどです。 80年代から少し遡り、1968年頃、ジャマイカのサウンド・エンジニアであるキングタビー(King Tubby)が、サウンド・システム用のボーカル抜きのトラック(バージョン)を製作する過程でダブという手法を偶然発明しました。 ダブは原曲のリズムを強調してミキシングし、エコーやリバーブなどの音響効果を過剰に施すことで、原曲とは全く別の作品に作り変えて(つまりリミックスによって)、新しいサウンドを生み出し聴衆と共有しました。 このダブに見られる「編集による創造」という概念は、70年代後半あたりからニューヨーク、シカゴでのハウスミュージック、デトロイトのテクノ、ロンドン、ドイツ、日本、さらにヒップホップなど各地の主にダンスミュージック・カルチャーと結びついて、さらに先鋭化されラディカルな表現手法として結実、発展していきました。 新たなサンプリング・ミュージックの一連の「編集」の過程では、サウンドの変換を通じて「連続的な新結合」が行われ、そこには異質なものが鮮明に組み合わされることで生まれる新しい感覚がありました。 また、それらのサンプリング・ミュージックは単に斬新なサウンドというだけでなく、サンプリングの過程で過去の音源を再発見し、新しいサウンドとして蘇らせる温故知新的な側面もありました。 シミュレーショニストたちは過去の音源をサンプリングし加工して、新しいサウンドを生みだした。シミュレーションの編集的方法は著作権の扱いなどについて賛否両論を呼び起こした。同時期から、同様の論争がコンピューターソフトウェア、プログラムのソースコードの取り扱いにについてソフトウェア企業とプログラマたちの間でも繰り広げられている。 DJはレコードプレーヤーとミキサーで曲の断片をつなぎあわせて刻々と変化する反復的なリズムを刻み、サンプリングによって借用されためくるめく色彩の視覚的なサウンドで空間を包み込む。強烈な低音によってサウンドは肉体性を獲得し、過激な電子信号と視覚イメージが感覚を直接刺激することで、群衆を歓喜へと導きました。 DJが生み出す変化し続けるグルーヴ《ゆらぎ》はフロア《場》との相互作用によって有機的に発展し、そのことが一体感のある共有された新しい音楽体験《エクスペリエンス》を次々と生みだしていったのです。 Technics SLー1200mk2(1981年頃)。レコードプレーヤー、ターンテーブル。世界中のクラブでDJミックスのための楽器として使われ数々の伝説的瞬間を支えた名器。本来オーディオ機器であったターンテーブルが意図せざる用途で利用され、見事に転用、転換、昇華された。 いまIoTによって潤沢なリソースが解放されようとしています。 私たちは今後、IoTの実現によって、より自由に潤沢なリソースにアクセスすることが可能となります。また共有《シェア》という概念もより一般的になり、権利関係の諸問題も整理されていくことでしょう。 私たちはシミュレーショニズムの3つの認識論的切断の戦略、「サンプリング」、「カットアップ」、「リミックス」を用いて解放された潤沢なリソースを編集、再生し変化を与え続けることでリソース間の相互作用を促進し、社会的価値を創造していくことができるでしょう。 |サンプリング2.0 “ピカソは「優れた芸術家は模倣し、偉大な芸術家は盗む」と言った。だから僕たちは、偉大なアイディアを盗むことに関して、恥じることはなかった。” これは、Appleの創業者、スティーブ・ジョブズがインタビューで語った言葉です。彼自身、多くの先人達からアイディアを得て、Macintoshを完成させました。例えば、あの画期的なクリックするマウスも元々はAppleではなくXerox(ゼロックス)が開発したものでした。Xeroxが使わなかったマウスを、ジョブズはタダ同然で貰い受け、それをMacintoshに組み入れたのです。 サンプリングは、既存の製品またはサービスの一部を標本として取り出し、それを新たなコンテクスト(文脈)の中に接合することによって新しい価値を生みだします。また、サンプリングは繰り返し反復、転用されることによって、元々のオリジナルが持っていた原意味を脱構築します。オリジナルの持つ唯一性は幻想のように霧散し、一部の機能・プロセスがひたすら繰り返されることとなります。そして、サンプリングが繰り返されることによって、元々の製品・サービスの効果、便益の“特定の一面”が増幅、強化されます。 例えば、新たに寿司店を開業する際に、かつては寿司職人として10年以上修行した職人が、親方に認められて後に独立という流れが一般的であったでしょう。しかし、おそらく今後は超一流の寿司職人のつくる寿司をサンプリングし、味覚、感触、匂い、温度などをコンピューターが完全に再現し、そのソフトウェアを店舗にアップデートすることによって誰でも即時に開業することが可能になるでしょう。 果たして、このような寿司店を良いと思うか、悪いと思うかは別として、将来的にはテクノロジーの進展にともなってそのような店舗づくりも増えていくことでしょう。 <ビジネスにおけるサンプリングの留意点> ・企業の境界を再定義する ・他社の経営資源を自社の資源と同様に活用する ・新しい事業機会、シードを常に探索し続ける ・自社を補完的な機能として考える |カットアップ2.0 サンプリングされた「部分」は切り刻まれ、加工され「なにか」と組み合わされます。 このカットアップの工程においては、驚きと意外性を持って組み合わされる必要があります。予定調和的な接合からは、新しいイノベーションが生まれることはありません。カットアップによる驚きと意外性がもたらす、ゆらぎと創造的カオスこそが、新しい社会的価値を生みだそうとする原動力となります。 物質的に飽和した社会においては、製品サービスに対する需要は、生活的必要性から生じるものではありません。未知なるものとの出会いと遭遇による喜び、新たな体験こそが求められているのです。 <ビジネスにおけるカットアップの留意点> ・異質なものを組み合わせる ・予定調和を拒否する ・不必要なものは大胆に取り除く |リミックス2.0 リミックスは、サンプリングされカットアップされた素材を、わずかな差異を持った集合として連鎖的に反復させることによって、全く新しい事象として統合します。 繰り返される反復、複製の間に、ユーザーすらも無意識的にその内部に取り込まれ、有機的なひとつの「固まり(クラスター)」と化します。フェイスブック、ツイッター等のSNSの連鎖的なタイムラインの流れに中毒性があるのも、この繰り返される「反復」に大きな要因があります。 そして、その反復はひとつの形態にとどまることなく、徐々に変化していきます。 リミックスによって繰り返される反復を一つの新しい事象へと統合していくためには、全体像を明確に描き出すグランドデザインが欠かせません。新たなグランドデザインを実現することこそがリミックスの究極の目的だとも言えます。新たなグランドデザインは企業活動に「新しい意味づけ」を与え、「従来と異なるコンテクスト(文脈)への分岐点」となり、そしてユーザーに「新たなエクスペリエンス(経験)」を提供します。 サンプリングとカットアップが直観的であればあるほど、リミックスには全体を紡ぎあわせる繊細さが求められます。グランドデザインと繊細さが欠けているリミックスにおいては、わずかな違和感が繰り返される反復のうちに大きく広がり全体が瓦解してしまいます。そしてリミックスには繊細さと同時に即興的な素早さも必要とされます。ひとたび反復と変化が途絶えてしまえば、ユーザーが瞬く間に離れていってしまうのがアクセスの利便性のコインの裏側だといえます。 そして、リミックスされた新しいデザインは、すべて顧客が製品サービスから得た体験の満足度、つまりユーザーエクスペリエンス(UX)によって評価されます。 <ビジネスにおけるリミックスの留意点> ・グランドデザインを描く ・ユーザーエクスペリエンス(UX)を重視する ・繊細かつ即興的素早さを持って、統合する ・ルーティンにまで落とし込んで、繰り返し反復する |外部構造の変換、内部構造の変換 企業またはビジネスに携わる個人は、外部のリソースに自由にアクセスし、外部のプレイヤー(顧客、競合、供給業者、関連企業、機関、団体など)とも相互に作用しながら、社会関係を築き、機能を獲得し、さらに外部の組織間構造を変換し、編集することによって新たなユーザーエクスペリエンスを生みだし、社会的価値を創造することが可能になります。 同時に、外部へのアクセス、外部のプレイヤーとの直接的コミュニケーションによる相互作用をより効果的に働かせるためには、自社内部の組織構造も外部構造の変換にあわせて柔軟に編集していくことによって、社会的価値の創造を支える必要があります。 トップ・マネジメントチームの最も重要な役割は、外部構造の変換サイクルと内部構造の変換サイクルの両輪の歯車を噛み合わせて、「編集=連続的な新結合」のダイナミズムをつくりだすことです。 |素材としてのクラスター 企業が外部構造に変化を加え、変換、編集していくのにあたって、その素材を与えてくれるのが「クラスター」と呼ばれる企業群です。 クラスターとは、ある特定の分野に属し、相互に関連した、企業と機関からなる地理的に近接した集団で、これらの企業と機関は、共通性や補完性によって結ばれています(ポーター,1998)。最近では、クラスターに働く社会関係の力学も含めて、ビジネス・エコシステム(生態系)と表現されることもあります。 クラスターに属している企業は、クラスター内の他の企業、機関を直接的または間接的に支援し、またそのケイパビリティ(企業の組織的遂行能力)を活用することでお互いに影響を及ぼし合っています。 クラスターという視点から経済をみると、特定地域での産業集積と企業群の分散的でオープンなつながりが、どのように異業種にまたがるネットワーク関係や社会関係資本を形成し、たえまない相互作用とイノベーションを誘発して価値創造の源泉となっているのかをとらえることができます。 クラスターの範囲をどこまでと認識し定義するのかは、産業または各種機関同士のつながりや補完性、共通性のうち、最も価値創造に貢献する要素は何かということについての理解に基づく、企業の意思決定における極めて創造的なプロセスであり、企業の経営戦略上、重要な意味を持っています。 イタリアの靴メーカーは新しいスタイルや製造技法について皮革メーカーと定期的に情報を交換し、皮革の新しい風合いや色について、企画段階から知見を得ている。また異なる皮革製品メーカー(共通のマーケティング媒体)、異なるタイプの靴メーカー(流通チャネルの重なり、投入資源の共通性、技術の類似性)との盛んな交流によって、流行のトレンドについてすばやく情報を得て、新製品の計画に役立てている。 クラスターの範囲は、垂直的なものか水平的なものか、あるいは制度的なものかを問わず、強いつながりを持った企業、産業、機関すべてを含むものになります。弱いつながり、存在しないつながりについては、除外してしまって構いませんが、一般的に認知されてる業界、産業、市場というくくりで、安易に企業群をとらえてしまうと、価値創造に強い影響を与える企業間の重要なつながりを見落としてしまいます。 企業は、自社の属するクラスターを独自の視点で再定義し、また自ら積極的にクラスターの構築、再構築を働きかけることによって、見過ごされていた価値創造の機会を得ることが可能になります。 外部構造の編集にあたって、企業はクラスターの各要素のうち、社会的価値の創出に大きな影響を及ぼすであろう要素の代入、付加、置換、削除、または併合と分割といった変換操作を行うことによって、クラスターの持つ意味そのものを変えることも可能になります。 |素材としての自社組織 企業が外部との相互作用つまり関係性に対して、より能動的に働きかけていくためには、自社組織もそれに適した形態に変わっていく必要があります。硬直的な縦割り組織では、外部構造の編集を行っていくための機動性、敏捷性に難点があります。また過度にフラットな組織では、外部構造をクラスターとしてとらえて、大きなグランドビジョンに基づいた構想を実現するには、小粒なアクションになりがちです。 縦割り型組織の最も代表的な形態はビュロクラシー(官僚制組織)です。ビュロクラシーは、かつて社会学者のマックス・ヴェーバーが、最も合理的・効率的な組織形態であると評したように、状況が安定しているときには、定型業務を効率よく大規模に行うのに優れています。 しかし、ビュロクラシーは、個人の自発性をそぐため、不確実性の高い急激に変化する状況においては、セクショナリズム(所属部門中心主義)などの様々な組織硬直的な弊害を伴い、変化に対応できないといった逆機能となるコストが生じます。 フラット型組織はビュロクラシーの弊害を克服するために、階層を排除し、成員参加型の有機的な組織構造によって迅速な戦略実行を可能とします。 一方で、フラット型組織は、組織内の各プロジェクトで生み出された知識、経験といった無形資産がほかの組織成員へと容易に伝わらず、それらを組織全体で連続的に活用することには向いていません。つまり、企業全体のゴールやビジョンを設定し達成する能力が欠けています。 ビュロクラシーの効率性とフラット型組織の柔軟性の両方を追求し統合した組織形態が、ハイパーテキスト型組織(野中・竹内,1995)です。垂直的組織と水平的組織の両方の特徴を兼ね備えたハイパーテキスト型組織は、資本主義経済と共有型経済のハイブリッド経済にふさわしい組織形態だといえるでしょう。 ハイパーテキスト型組織は、相互に結びついたレイヤーあるいはコンテクスト(文脈)、すなわちビジネス・システム、プロジェクト・チーム、知識ベースから成り立っています。 真ん中のレイヤーが「ビジネス・システム」レイヤーで、ここでは通常のルーティン業務が行われるため、ルーティンの仕事を効率よく行うために官僚制的組織構造が適しており、このレイヤーは階層的ピラミッド構造をしています。 一番上のレイヤーは、「プロジェクト・チーム」レイヤーで、ここではいくつものプロジェクト・チームが、目的に応じて知識創造活動に従事しています。チーム・メンバーは、ビジネス・システム・レイヤーの様々な部署から集められ、プロジェクトが終わるまではそのプロジェクトの専属となります。特定のプロジェクト・チームに編入されたメンバーは、必要に応じて様々なアクセス権限が与えられ、部門を横断的に、ときには階層を越えて往来し、組織の持つ知識を活用して新たな価値の創造を試みます。通常、プロジェクトには期限があります。 一番下のレイヤーが、「知識ベース」レイヤーで、上の二つのレイヤーで創られた知識、経験、技術が再分類、再構成され蓄積されています。知識ベース・レイヤーは組織ビジョン、組織文化、独自技術、データベースなどで構成され、個人で自由に組織の知にアクセスできるよう工夫されています。 ひとつの組織の中に三つのレイヤーを持つハイパーテキスト型組織は、ビジネス・システムとプロジェクト・チームで創りだされた知識が三つのレイヤー間で、循環することによって、組織内部の相互作用を促進します。さらに、ハイパーテキスト型組織は、外部からの知識を組織的に変換する能力を持って(野中・竹内,1995)います。 ハイパーテキスト型組織の最も重要な特徴は、そのメンバーが持っている文脈を変える能力、ある文脈から別の文脈へ簡単に出たり入ったりする能力(野中・竹内,1995)です。 「ハイパーテキスト」とは、ウェブページ上のテキストから文章や画像、映像などのデータなどを呼びだすコンピューター・サイエンスの仕組み。1965年8月24日、テッド・ネルソンがアメリカコンピューター学会で発表した。現在インターネット上で広く使われているWorld Wide Web(www)もハイパーテキストのひとつ。 内部構造の変換にあたっては、内外部の変換にともなって創られる知識、経験、技術をビジネス・システム・レイヤー上で行われるルーティンとして定着させ、その成果を知識ベースとなる組織ビジョン、組織文化、データベースに蓄積しながらも、プロジェクト・チームを機会に応じて柔軟に編成しアグレッシヴな行動を積極的に後押しすることによって、知識資産の創造と蓄積が可能となります。 |経済活動を再編集する かつて封建主義から資本主義へ経済システムが移行していったように、いま資本主義経済システムが次の段階へと移行しつつあるとすれば、その移行にあわせて社会構造を編集する必要があります。 共有型経済が出現し、インターネットアクセスによって水平展開しほぼ無限といっていいほどの相互作用が可能となる社会においては、そこで発生する多様な価値観を受け入れられる社会構造を構想していく必要があるでしょう。 社会構造の編集という一大事業の中で、企業またはビジネスに携わる個人は、自社の機能と外部の組織間構造を組み換えながら、社会的課題の解決を通じて経済活動をたえまなく再編集していくこととなります。 参考文献: 『限界費用ゼロ社会 :<モノのインターネット>と共有型経済の台頭』 THE ZERO MARGINAL COST SOCIETY :THE INTERNET OF THINGS AND THE RISE OF THE SHARING ECONOMY ジェレミー・リフキン 2015 『シミュレーショニズム :ハウスミュージックと盗用芸術』 Simulationism 椹木 野衣 1991,2001 『西太平洋の遠洋航海者』 Argonauts of the Western Pacific ブロニスワフ・マリノフスキ 1922 『贈与論』 Essai sur le don マルセル・モース 1925 『資本主義、社会主義、民主主義』 CAPITALISM,SOCIALISM and DEMOCRACY ヨーゼフ A. シュンペーター 1942,1947,1950 『共通価値の戦略 :経済的価値と社会的価値を同時実現する』 Creating Shared Value マイケル E. ポーター、マーク R. クラマー 2011 『競争戦略論Ⅱ』 ON COMPETITION マイケル E. ポーター 1998 『知識創造企業』 The Knowledge-Creating Company 野中郁次郎、竹内弘高 1995

  • 資金調達をマーケティングする

    2015年4月の国内銀行の貸出金利の平均は1.16%となっており、 2007年末の直近のピークから0.8%も下がり、銀行の貸出金利の低下が進んでいます。 この状況を利用して、 大手企業は、国内で超低金利で低コストの資金を調達し、海外企業の買収などを積極的に行っています。 また、海外企業も2014年には3700億円(前年比33%増)の融資を日本の銀行から受け、超低金利のメリットを享受しています。 現在の日本の超低金利の状況は、企業にとって低コストで資金調達できる、 事業拡大のための大きなチャンスといえます。 当然ながら、企業が事業を行うには資金が必要となります。 しかし、資本市場へのアプローチについて体系的な取り組みを行っている中小企業は実に少ないと言わざるをえません。 そもそも、企業とはなにか?という根元に立ち返ってみれば、 企業の本質は、資金・労働力・設備・原材料を調達し、経済的付加価値を創出することにあります。 資本市場へのアプローチ方法について、 体系的な取り組みが確立されていない企業は、 企業としての機能の半分が失われてしまっているといっても過言ではありません。 これからインターネットビジネスを始める起業家も、 新規出店を計画している小売チェーンも、 資金繰りの困難に直面している中古車ディーラーも、 在庫・売掛金を圧縮して経営効率を高めたい機械部品商社の経営者も、 新規事業の立ち上げを行う急成長する大企業の事業責任者であっても、 それぞれのニーズを満たすコストの安い最適な資金調達方法を見つけだし、 選択しなければなりません。 (結果として、それが既存事業の内部収益からの調達であったとしても) そして、資金提供者に対しては、 事業のリスクを満たすリターンが見込めるということを、 十分納得させる必要があります。 では、企業はどのように事業に適切な資金調達方法を選択し、 資金提供者に資金使途の正当性を説明すれば良いのでしょうか? その答えを導き出すのが、 『資金調達のマーケティング』です。 イノベーションこそが競争優位の直接的要因となる現在、 資金調達のマーケティングは、 あなたの会社の独自の優位性をつくりだし、 ライバルとの決定的な差別化要因となる可能性があります。 資金調達方法が多様化するいま、 企業経営者はライバル企業またはベンチマーク企業が、 なぜ躍進しているのかについて、表面上の商品・サービスの優位性だけでなく、 財務戦略の側面からも検討すべきでしょう。 ライバルは取引債権を担保にして、 事業成長に必要な新たな資金源を得ているかもしれません。 それとも新たに取得する資産を担保にして証券を発行して、 より迅速に事業拡大を実行し、有利なポジションを確立しようとしているかもしれません。 もしくは行政の助成金制度、補助金事業を有効に活用して、 顧客に対する提案のコストを下げているかもしれません。 資金の調達手段には、 現在、以下のように様々な形態があります。 <資金調達手段の形態> ・自己資金 ・事業から生み出されるキャッシュフロー ・普通株式 ・優先株式 ・コンバーチブル・ノート ・新規株式公開(IPO “新規株式の公募&売り出し”) ・ダイレクトリスティング(直接上場 “既存株式の売り出しのみ”) (2020.11.18 加筆) ・SPAC(特別買収目的会社)の上場 (2020.11.18 加筆) ・公募増資 ・第三者割当増資 ・新株予約権 ・社債 ・転換社債(CB) ・メザニンファイナンス ・自治体の制度融資 ・中央省庁の支援事業 ・地方自治体の支援事業 ・日本政策金融公庫の融資 ・信用保証協会の保証制度融資 ・民間金融機関のプロパー融資 ・プロジェクトファイナンス(ノンリコースローン) ・リース ・リースバック ・クラウドファンディング ・新規仮想通貨公開(ICO イニシャル・コイン・オファリング) (2018.2.3 加筆) ・ソーシャルレンディング ・資本性ローン ・ビジネスローン ・シンジケートローン ・劣後ローン ・仕入先との企業間金融 ・コマーシャル・ペーパー ・資産担保融資 ・売掛債権担保融資(アセット・ベースト・レンディング) ・売掛債権の売却(ファクタリング) ・株式担保融資 ・資産の証券化 ・SPC(特別目的会社)を使った資産流動化 ・事業譲渡による資金調達 また、資金調達のマーケティングの対象となる資本市場でも、 数多くのプレイヤーが存在しています。 <主な資金提供者> ・創業者及びその縁故者 ・共同経営者 ・エンジェル投資家 ・インキュベーター ・ベンチャーキャピタル(VC) ・プライベート・エクイティ(PE) ・戦略的投資家(事業会社) ・コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC) ・機関投資家 ・個人投資家 ・従業員 ・ユーザー (2018.2.3 加筆) ・取引企業 ・提携企業 ・政府系金融機関 ・都市銀行 ・地方銀行 ・信用金庫 ・信用組合 ・金融仲介会社 ・ノンバンク ・リース会社 ・行政機関 そして、各資金提供者はそれぞれの立場や意図にもとづいた独自の基準に従って、 資金拠出の可否や、規模を決定します。 例えば、民間の金融機関では「融資の基本原則」に沿って、融資の判断を行っています。 <融資の基本原則 ※ > ・安全性の原則 ・収益性の原則 ・流動性の原則 ・成長性の原則 ・公共性の原則 ※金融機関が融資を行う際に考慮すべき基本原則 。「融資の5原則」とも言う。 企業経営者は、 自社に適切な資金調達手段を選択し、それぞれの資金提供者の志向、目的、投資基準を理解し、 継続して一貫したコミュニケーションを行っていく必要があります。 多様化する資金調達をマーケティングし、 経営ビジョンへのロードマップとなる事業計画を見直すことで、 あなたのビジネスは大きな飛躍のきっかけを掴めるでしょう。 資金調達のマーケティングは、中小企業の経営上のボトルネックとなっているケースが多いため、 中小企業にとってのほうが、よりインパクトの大きい威力のある取り組みとなることが期待できます。 クラフトでは、 クライアント企業の資金調達のマーケティングを以下のプロセスで組み立てています。 自社のビジネスモデル、財務状況にあわせて ターゲットを絞り込み、自社の展望、特徴をポジショニングし、 投資家への提案を組み立て、アプローチのプロセスを設計し、管理していきます。 資金調達のマーケティング・プロセスの設計にあたっては、 クラフトが「資金調達のMLB」と呼んでいる 次の3つの要素について検討する必要があります。 <資金調達のMLB> ・自社のビジネスモデル (Business Model) ・自社の事業ライフサイクル (Business Life Cycle) ・事業リスクと財務リスクのバランス (Balance of the Business Risk and Financial Risk) 中小企業も資金調達のマーケティングを行うことで、 成長のためのロードマップが明確になり、解消すべきボトルネックも明らかになります。 資金調達のマーケティングの過程の中で 自社の戦略、事業計画も現実的かつ具体的で明確なものとなっていくことでしょう。

  • 「競争するな、独占せよ」 ペイパル創業者、ピーター・ティール スタンフォード大学 起業家育成講義 全収録 Competition is For Losers - Peter Thiel

    オンライン決済サービスPaypalを創業し、投資家としてもシリコンバレーで絶大な影響力をもつPeter Thiel(ピーター・ティール)氏のスタンフォード大学での起業家育成講義を収録しました。本講義では、ビジネスモデルについて「競争」と「独占」という2つの視点をもとに解説し、企業の成功法則について語っています。 日本でも著書「ゼロ・トゥ・ワン」がベストセラーとなり、注目を集めています。本講義の内容はいわゆる競争戦略論とはかけはなれた彼独自の理論を展開しており、起業家必見の内容となっています。講義内容を全て英文で起こしてありますので、併せてご覧ください。 Peter Thiel, founder of Paypal and Palantir, discusses business strategy and monopoly theory in "Competition is For Losers". Sam: Alright, good afternoon, today’s speaker is Peter Thiel, Peter was the founder of PayPal, Palantir, and Founders Fund and has invested in most of the tech companies in Silicon Valley. He's going to talk about strategy and competition. Thank you for coming, Peter. Peter: Awesome, thanks Sam for inviting me, thanks for having me. I sort of have a single idea fixed that I'm completely obsessed with on the business side which is that if you're starting a company, if you’re the founder, entrepreneur, starting a company you always want to aim for monopoly and you want to always avoid competition. And so hence competition is for losers, something we’ll be talking about today. I'd like to start by saying something about the basic idea of when you start one of these companies, how do you go about creating value? What makes a business valuable? And I want to suggest there's basically a very simple formula, that if you have a valuable company two things are true. Number one, that it creates "X" dollars of value for the world. Number two, that you capture "Y" percent of "X.” And the critical thing that I think people always miss in this sort of analysis is that "X" and "Y" are completely independent variables, and so "X" can be very big and "Y" can be very small. "X" can be an intermediate size and if "Y” is reasonably big, you can still have a very big business. So to create a valuable company you have to basically both create something of value and capture some fraction of the value of what you've created. And sort of just to illustrate this as a contrast, if you compare the US airline industry with a company like Google on search, if you measure by the size of these industries you could say that airlines are still more important than search, just measured by revenue. [For airline carriers] there’s $195 billion in domestic revenues in 2012; Google had just north of $50 billion. And certainly on some intuitive level if you were given a choice and said, well would you want to get rid of all air travel, or do you want to give up search engines, the intuition would be that air travel is something that's more important than search. And this is of course just the domestic numbers. If you'd look at this globally, airlines are much much bigger than search, than Google is, but the profit margins are quite a bit less. They were marginally profitable in 2012, I think in the entire hundred year history of the airline industry, the cumulative profits in the US have been approximately zero. The companies make money, they episodically go bankrupt, they get recapitalized, and you sort of cycle and repeat. And this is reflected in the combined market capitalization of the airline industry, which may be something like a quarter of Google's. So you have search much smaller than air travel but much more valuable. I think this reflects these very different valuations on "X" and "Y." If we look at perfect competition, there's some pros and cons to the world of perfect competition. On a high level, this is something you always study in Econ I, it's always easy to model, which is why I think econ professors like talking about perfect competition. It somehow is efficient, especially in a world where things are static, because you have all the consumer surplus that’s captured by everybody, and politically it’s what we’re told is good in our society: you want to have competition and it’s somehow a good thing. Of course there are a lot of negatives, it's generally not that good if you're involved in anything that’s hyper competitive, because you often don't make money. I’ll come back to this a little bit later. So I think on one end of the spectrum you have industries that are perfectly competitive and at the other end of the spectrum you have things that I would say are monopolies, and they’re much more stable longer term businesses, you have more capital, and if you get a creative monopoly for inventing something new, I think it's symptomatic of having created something really valuable. I do think the extreme binary view of the world I always articulate is that there are exactly two kinds of businesses in this world, there are businesses that are perfectly competitive and there are businesses that are monopolies. There is shockingly little that is in between. And this dichotomy is not understood very well because people are constantly lying about the nature of the businesses they are in. And in my mind this is not necessarily the most important thing in business, but I think it's the most important business idea that people don't understand, that there are just these two kinds of businesses. So let me tell you a little bit about the lies people tell. If you imagine that there was a spectrum of companies from perfect competition to monopoly, the apparent differences are quite small because the people who have monopolies pretend not to. They will basically say, and it’s because you don’t want to get regulated by the government, you don’t want the government to come after you, so you will never say that you have a monopoly. So anyone who has a monopoly will pretend that they are in incredible competition; and on the other end of the spectrum if you are incredibly competitive, and if you’re in some sort of business where you will never make any money, you'll be tempted to tell a lie that goes in the other direction, where you will say that you're doing something unique that is somehow less competitive than it looks because you'll want to differentiate, you will want to try and attract capital, or something like that. So if the monopolists pretend not to have monopolies, the non-monopolies pretend to have monopolies, the apparent difference is very small whereas the real difference I would submit is actually quite big. So there’s this business distortion that happens because of the lies people tell about their businesses and the lies are sort of in these opposite directions. Let me drill a little bit down further on the way these lies work. And so the basic lie you tell as a non-monopoly is that we're in a very small market. The basic lie you tell as a monopoly is the market you’re in is much bigger than it looks. So typically if you want to think of this in set theoretic terms, you could say that a monopoly tells a lie where you describe your business as the union of these vastly different markets and the non-monopolist describes it as the intersection. So in effect, if you're a non-monopolist you will rhetorically describe your market as super small, you're the only person in that market. If you have a monopoly you'll describe it as super big and there's lots of competition in it. Some examples of how this works in practice. I always use restaurants as the example of a terrible business, this is always sort of the idea that capital [accumulation] and competition are antonyms. If someone accumulates capital, a world of perfect competition is a world where all the capital gets competed away. So you're opening a restaurant business, no one wants to invest because you just lose money, so you have to tell some idiosyncratic narrative and you'll say something like. "Well we're the only British food restaurant in Palo Alto.” So its British, Palo Alto and of course that's too small a market because people may be able to drive all the way to Mountain View or even Menlo Park and there probably are no people who eat nothing but British food, at least no people who are still alive. So that's sort of a fictitiously narrow market. There is sort of a Hollywood version of all of this, the way movies always get pitched, where it’s like a college football star, you know, joins an elite group of hackers to catch the shark that killed his friend. Now that's a movie that has not yet been made, but the question is, "Is that the right category or is the correct category, it's just another movie?" In which case there are lots of those, it’s super competitive, it’s incredibly hard to make money, no one ever makes money in Hollywood making movies, it’s really really hard. So you always have this question about is the intersection real? Does it make sense? Does it have value? And of course there are startup versions of this, and in the really bad versions you just take a whole series of the buzzwords: sharing, mobile, social apps, you combine them and give some kind of narrative and whether or not that's a real business or not, it is generally a bad sign. It's almost this pattern recognition when you have this rhetoric of these sort of intersections, it generally does not work. The something of somewhere is really mostly just the nothing of nowhere, it's like the Stanford of North Dakota, one of a kind, but it's not Stanford. Let's look at the opposite, the opposite lie, is if you are let's say the search company that’s down the street from here and has about a happy sixty-six percent market share and is completely dominant in the search market. Google almost never describes itself as a search engine these days and instead it describes itself in all these different ways. So it sometimes says it’s an advertising company. So if it was search you would say, well it's like it has this huge market share that's really crazy, so it's like an incredible monopoly, it's a much bigger and much more robust monopoly than Microsoft ever had in the nineties, maybe that's why it’s making so much money. But if you say it's an advertising market, you could say well, search advertising is seventeen billion and that's part of online advertising, which is much bigger and then, you know, all US advertising is bigger, and then by the time you get to global advertising, that's close to five hundred billion and so you're talking about three and a half percent, so a tiny part of this much larger market. Or if you don't want to be an advertising company, you could always say you’re a technology company. The technology market is something like a one trillion dollar market and the narrative that you tell about Google and the technology market is, well we're competing with all the car companies with our self-driving cars, we’re competing with Apple on TVs and iPhones, we’re competing with Facebook, we’re competing with Microsoft on office products, we’re competing with Amazon on cloud services and so we're in this giant technology market, where there's competition in every direction you look and no we’re not the monopoly the government's looking for and we should not get regulated in any way whatsoever. So I think one has to always be super aware that there are these very powerful incentives to distort the nature of these markets, one way or the other. The evidence of narrow markets in the tech industry is if you basically just, if you look at sort of the big tech companies, Apple, Google, Microsoft, Amazon, they have just been building up cash for year after year and you have these incredibly high profit margins, and I would say that the that one of the reasons the tech industry in the US has been so successful financially is because it's prone to creating all these monopoly-like businesses and it's reflected by the fact that these companies just accumulate so much cash they don't even know what to do with it beyond a certain point. Let me say a few things about how to build a monopoly, and I think one of the sort of very counterintuitive ideas that comes out of this monopoly thread is that you want to go after small markets. If you’re a startup, you want to get to monopoly. You’re starting a new company, you want to get to monopoly. Monopolies have a large share of the market, how do you get to a large share of the market? You start with a really small market and you take over the whole market and then over time you find ways to expand that market in concentric circles. The thing that's always a big mistake is going after a giant market on day one because that's typically evidence that you somehow haven't defined categories correctly, that normally means there is going to be too much competition in one way or another, so I think almost all the successful companies in Silicon Valley had some model of starting with small markets and expanding. If you take Amazon, you start with just a bookstore, we have all the books in the world, it's a better bookstore than anybody else has in the world when it starts in the 1990s. It's online, there's things you can do that you could not do before, and then you gradually expand into all sorts of different forms of e-commerce and other things beyond that. eBay, you start with Pez dispensers, you move on to Beanie Babies, and eventually it’s all these different online auctions for all these sorts of different goods. What’s very counterintuitive about many of these companies is they often start with markets that are so small, that people don't think they are valuable at all when you get started. The PayPal version of this was we started with power sellers on Ebay, which was about twenty thousand people. When we first saw this happening in December of 1999, January 2000 right after we launched, there was a sense that these were all, it was such a small market, it was terrible, we thought these were terrible customers to have, it's just people selling junk on the internet, why in the world we want to be going after this market? But there was a way to get a product that was much better for everybody in that market, and we got to something like twenty five, thirty percent market penetration in two or three months, and you've got some walk in to brand recognition, and are able to build the business from there. So I always think these very small markets are quite underrated. The Facebook version of this I always give is that if the initial market at Facebook was ten thousand people at Harvard, it went from zero to sixty percent market share in ten days, that was a very auspicious start. The way this gets analyzed in business schools is always, that's so ridiculous, it's such a small market, it can't have any value at all. So I think the business school analysis of Facebook early on, or of Paypal early on, or of Ebay early on, is that the markets were perhaps so small as to have almost no value and that they would've had little value had they they stayed small, but it turned out there were ways to grow them concentrically and that's what made them so valuable. Now I think the opposite version of this is always where you have super big markets and there is so many different things that went wrong with all the clean tech companies in the last decade. But the one theme than ran through almost all of them is that they all started with massive markets. Every clean tech powerpoint presentation that one saw in the years 2005 to 2008, which is the clean tech bubble in Silicon Valley, started with where the energy market, where the market was measured in hundreds and billions of trillions of dollars. And then once you're sort of like a minnow in a vast ocean, that is not a good place to be. That means you have tons of competitors and you don’t even know who all the competitors are. You want to be a one of a kind company. You want to be the only player in a small ecosystem. You don’t want to be the fourth online pet food company. You don’t want to be the tenth solar panel company. You don’t want to be the hundredth restaurant in Palo Alto. Your restaurant industry is a trillion dollar industry. So if you do a market size analysis, you conclude restaurants are fantastic business to go into. And often large existing markets typically means that you have tons of competitions so it's very very hard to differentiate. The first very counterintuitive idea is to go after small markets, markets that are so small people often don't even think that they make sense. That's where you get a foothold and then if those markets are able expand, you can scale into a big monopoly business. There are several different characteristics of these monopoly businesses that I'd like to focus on. There is no single formula. In technology there is always a sense that in the history of technology, every moment happens only once. The next Mark Zuckerberg won’t build a social network and the next Larry Page won’t be building a search engine, and the next Bill Gates won’t be building an operating system. If you are copying these people, you are not learning from them. There are always very unique businesses that are doing something that has not been done before and end up having the potential to be a monopoly. The opening line in Anna Karenina, that all happy families are alike and all unhappy families are unhappy in their own special way, is not true in business, where I think all happy companies are different because they're doing something very unique. All unhappy companies are alike because they failed to escape the essential sameness in competition. One characteristic of a monopoly technology company is some sort of proprietary technology. My sort of crazy, somewhat arbitrary rule of thumb is you want to have a technology that's an order of magnitude better than the next best thing. So Amazon had over ten times as many books, it may not have been that high tech, but you figure oh well it can sell ten times as many books and be more efficient along the way. In the case of PayPal, Bill Turner was using checks to send money on Ebay, it took seven to ten days to clear, and PayPal could do it more than ten times as fast. You want to have some sort of very powerful improvement, some order of magnitude improvement, on some key dimension. Of course, if you just come with something totally new, it's just like an infinite improvement. I would say the iPhone was the first smart phone that worked, it may not be in fact, but it's so definitely an order of magnitude of an improvement. So I think the technology needs to be designed to give you a massive delta over the next the next best thing. I think there often are network effects that can kick in and that really help the thing and these are linked to monopolies over time, the thing that is very tricky about network effects is they're often very hard to get started and so you know everyone understands how valuable they are. There's always this incredibly tricky question: why is it valuable to the first person who's doing something. Economies of scale, if you have something with very high fixed costs and very low marginal costs, that's typically a monopoly-like business. And then there is this thing of branding which is sort of this idea that gets lodged into people's brains. I never quite understand how branding works, so I never invest in companies where it’s just about branding but it is, I think, a real phenomenon that creates real value. I think one of the things, I'm going to come back to this in a little bit, towards the end, but one of the things that’s very striking is that software businesses are often, are for some reason, very good at some of these things. They are especially good at the economies of scale part because the marginal cost of software is zero. So if you get something that works in software it's often significantly better than the existing solution and then you have these tremendous economies of scale and you can scale fairly quickly. So even if the market starts small, you can grow your business quickly enough to stay at the same size as the growing market and maintain the monopoly of power. Now the critical thing about these monopolies is it's not enough to have a monopoly for just a moment. The critical thing is have one that lasts over time and so in Silicon Valley there is always this sort of idea that you want to be the first mover and I always think in some ways the better framing is you want to be the last mover. You want to be one of the last companies in that category, those are the ones that are really valid. Microsoft was the last operating system, at least for many decades. Google was the last search engine. Facebook will be valuable if it turns out to be the last of social networking site. And one way to think of this last mover value is this idea that most of the value in these companies exists far in the future. If you do a discounted cash flow analysis of the business, you'll look at all these profit streams, you have a growth rate, the growth rate’s much higher that the discount rate and so most of the value exists far in the future. I did this exercise at Pay Pal in March of 2001 we'd been in business for about twenty seven months and the growth rate was a hundred percent a year, we were discounting future cash flows by thirty percent, and it turned out that about three quarters of the value of the business as of 2001 came from cash flows in years 2011 and beyond. And whenever you do the math on any of these tech companies, you get to an answer that is something like that. So if you are trying to analyze any of the tech companies in Silicon Valley, AirBnB, Twitter, Facebook, any emerging Internet companies, all the ones in Y Combinator, the math tells you that three quarters, eighty-five percent of the value is coming from cash flows in years 2024 and beyond. It's very far in the future and so one of the things that we always over value in Silicon Valley is growth rates and we undervalue durability. Growth is something you can measure in the here and now, you can always track that very precisely. The question of whether a company will be around a decade from now, that’s actually what dominates the value equation and that’s a much more qualitative sort of a thing. And so if we went back to this idea of these characteristics of monopoly, the proprietary technology, network effects, economies of scale, you can think of these characteristics as ones that exist at a moment in time where you capture a market and take it over but you also want to think about, are these things going to last over time. So there’s a time dimension to all these characteristics. So networks in fact often have a great time element where as the network scales, network effects actually get more robust, and so if you have a network business it's often one that can become a bigger and stronger monopoly over time. Proprietary technology is always a little bit of a tricky one, so you want something that is an order of magnitude better than the state of the art in the world today. That's how you get people's attention, that's how you initially break through. But then you don't want to be superseded by somebody else. So there are all these areas of innovation where there was tremendous innovation, but no one made any money. So disk drive manufacturing in the 1980's, you could build a better disk drive than anybody else, you could take over the whole world and two years later someone else would come along and replace yours. In the course of fifteen years, you got vastly improved disk drives, so had a great benefit to consumers, but it didn't actually help the people who started these companies. There's always this question about having a huge breakthrough in technology, but then also being able to explain why yours will be the last breakthrough or at least the last breakthrough for a long time or if you make a breakthrough, then you can keep improving on it at quick enough pace that no one can ever catch up. So if you have a structure of the future where there's a lot of innovation and other people will come up with new things and the thing you're working on, that's great for society. It's actually not that good for your business typically. And then economies of scale we’ve already about. I think this last mover thing is very critical. I’m always tempted, I don't want to overdo chess analogies, but the first mover in chess is someone who plays white, white is about a one-third of a pawn advantage, so there is a small advantage to going first. You want to be the last mover who wins the game, so there’s always world chess champion Capablanca line, “You must begin by studying the end game.” I wouldn't say that’s the only thing you should study, I think perspective of asking these questions, why will this still be the leading company in ten, fifteen, twenty years from now, is a really critical one to try to think through. I want to go in two slightly other directions with this the monopoly versus competition idea. I think this is the central idea on my mind for business, for starting a business, for thinking about them. There are some very interesting perspectives, I think it gives, on the whole history of innovation in technology and science. We've lived through 300 years of incredible technological progress in many many different domains. Steam engines to railways, the telephone, refrigeration, household appliances, the computer revolution, aviation, all different areas of technological innovation. Then there's sort of an analogous thing to say about science where we've lived through centuries of enormous amounts of innovation in science as well. The thing that I think people always miss when they think about these things, is that because "X" and "Y" are independent variables, some of these things can be extremely valuable innovations, but the people who invent them, who come up with them, do not get rewarded for this. Certainly if you go back to you need to create X dollars in value and you capture Y percent of X, I would suggest that the history of science has generally been one where Y is zero percent across the board, the scientists never make any money. They’re always deluded into thinking that they live in a just universe that will reward them for their work and for their inventions. This is probably the fundamental delusion that scientists tend to suffer from in our society. Even in technology there are sort of many different areas of technology where there were great innovations that created tremendous value for society, but people did not actually capture much of the value. So I think there is a whole history of science and technology that can be told from the perspective of how much value was actually captured. Certainly there are entire sectors where people didn't capture anything. You're the smartest physicist of the twentieth century, you come up with special relativity, you come up with general relativity, you don't get to be a billionaire, you don't even get to be a millionaire. It just somehow doesn't work that way. The railroads were incredibly valuable, they mostly just went bankrupt because there was too much competition. Wright brothers, you fly the first plane, you don't make any money. So I think there is a structure to these industries that’s very important. I think the thing that's actually rare are the success cases. So if you really think about the history in this and this two hundred fifty years sweep, why is almost always zero percent, it's always zero in science, it's almost always in technology. It's very rare where people made money. You know in the late eighteenth, early nineteenth century, the first industrial revolution was the textile mills, you got the steam engine, you sort of automated things. You had these relentless improvements that people improved efficiency of textile factories, of manufacturing generally, at a clip of five to seven percent every year, year after year, decade after decade. You had sixty, seventy years of tremendous improvement from 1780 to 1850. Even in 1850, most of the wealth in Britain was still held by the landed aristocracy and the workers didn't make that much. The capitalists didn't make that much either, it was all competed away. There were hundreds of people running textile factories, it was an industry where the structure of the competition prevented people from making any money. There are, in my mind, probably only two broad categories in the entire history of the last two hundred and fifty years where people actually came up with new things and made money doing so. One is these sort of vertically integrated complex monopolies which people did build in the second industrial revolution at the end of the nineteenth and start of the twentieth century. This is like Ford, it was the vertically integrated oil companies like Standard Oil, and what these vertically integrated monopolies typically required was a very complex coordination, you've got a lot of pieces to fit together in just the right way, and when you assemble that you had a tremendous advantage. This is actually done surprisingly little today and so I think this is sort of a business form that when people can pull it off, is very valuable. It's typically fairly capital intensive, we live in a culture where it's very hard to get people to buy into anything that's super complicated and takes very long to build. When I think of my colleague and friend Elon from PayPal success with Tesla and SpaceX, I think the key to these companies was the complex vertically integrated monopoly structure they had. If you look at Tesla or SpaceX and you ask, was there sort of a single breakthrough, I mean they certainly innovated on a law of dimensions, but I don't think there was a single 10X breakthrough on battery storage, they may be working on some things in rocketry, but there was no sort of single massive breakthrough. But what was really impressive was integrating all these pieces together and doing it in a way that was more vertically integrated than most other competitors. So Tesla also integrated the car distributors so they wouldn't steal all the money as has happened with the rest of the car industry in the US. Or SpaceX, basically, you pulled in all subcontractors where most of the large aerospace companies have single sourced subcontractors that are able to charge monopoly profits and make it very hard for the integrated aerospace companies to make money. And so vertical integration I think is sort of a very under explored modality of technological progress that people would do well to look at more. And then I think there is something about software itself that's very powerful. Software has these incredible economies of scale, these low marginal costs, and there is something about the world of bits, as opposed to the world of atoms, where you can often get very fast adoption and fast adoption is critical to capturing and taking over markets because even if you have a small market, if adoption rate is too slow, there will be enough time for other people to enter that market and compete with you. Whereas if you have a small to midsize market, have the fast adoption rate, you can now take over this market. So I think this is one of the reasons Silicon Valley has done so well and why software has been this phenomenal industry. What I would suggest that we will leave you with is there are these different rationalizations people give for why certain things work and why certain things don't work, and I think these rationalizations always obscure this question on creating "X" dollars in value and capturing "Y" percent of "X." So, the science rationalization we’re always told is that the scientists aren’t interested in making money. They’re doing it for charitable reasons and that you're not a good scientist if you’re motivated by money. I'm not even saying people should always be motivated by money or something like this, but I think we should wish to be a little bit more critical of this as a rationalization. We should ask is this a rationalization to obscure the fact that "Y" equals zero percent and the scientists are operating in this sort of world where all the innovation is effectively competed away and they can’t capture any of it directly. The software distortion that often happens is because people are making such vast fortunes in software, we infer that this is the most valuable thing in the world being done full stop. And so people at Twitter make billions of dollars, it must be that Twitter is worth far more than anything Einstein did. What that realization tends to obscure, is again that "X" and "Y" are independent variables and that there are these businesses where you capture a lot of X and others where you don't. So I do think the history of innovation has been this history where the microeconomics, the structure of these industries has mattered a tremendous amount and there is sort of this story where some people made vast fortunes because they worked in industries with the right structure and other people made nothing at all because they were in these very competitive things. We shouldn't just rationalize that way. I think it's worth understanding this better. Then finally, let me come back to this sort of overarching theme for this talk, this competition is for losers idea, which is always a provocative way to title things because we always think of the losers as the people who are not good at competing. We think of losers as the people who are slow on the track team in high school or do a little less well on standardized tests, and don't get into the right schools. So we always think of losers as people who can't compete and I want us to really rethink and re-value this and consider whether it's possible the competition itself is off. It's not just the case we don't understand this monopoly-competition dichotomy intellectually. So we’ve been talking about why you wouldn’t understand it intellectually, because people lie about it, it’s distorted, the history of innovation rationalizes it in all these very strange ways. I think it's more than just an intellectual blind spot, but also a psychological blind spot, where we find ourselves very attracted to competition and in one form or another we find it reassuring if other people do things. The word ape, already in the time of Shakespeare, meant both primate and imitate and that is something about human nature, it's deeply imitative, ape like, sheep like and this is very problematic thing that we need to always think through and try to overcome. There is always this question about competition as a form of validation, where we go for things that lots of other people are going for. It's not that there is wisdom of crowds, it's not that lots of people trying to do something is the best proof of that being valuable. I think it's when lots of people are trying to do something, that is often proof of insanity. There are twenty thousand people a year who move to Los Angeles to become movie stars, about twenty of them make it. I think the Olympics are a little bit better because you have, you can sort of figure out pretty quickly whether you’re good or not, so there's little less of a deadweight loss to society. You know the sort of educational experience that at a place, the pre-Stanford educational experience, there is always sort of a non-competitive characterization. I think most of the people in this room had machine guns and they were competing with people with bows and arrows, so it wasn’t exactly a parallel competition when you were in junior high school, in high school. There is always the question: does the tournament make sense as you keep going? There is always this question if people going on to grad school or post doctoral educations, does the intensity of the competition really make sense. There is the classic Henry Kissinger line describing his fellow faculty at Harvard, “The battles were so ferocious because the stakes were so small,” describing academia and you sort of think on one level this is a description of insanity. Why would people fight like crazy when the stakes are so small, but it's also, I think, simply a function of the logic of a situation. When it's been really hard to differentiate yourself from other people, when the differences are, when the objectives differences really are small, you have to compete ferociously to maintain a difference of one sort or another. That's often more imaginary than real. There is always sort of a personal version of this I tell, where I was sort of hypertracked. In my eighth grade junior high school yearbook one my friends wrote, I know you’re going to get into Stanford. Four years later, I went to Stanford Law School, ended up at a big law firm in New York where from the outside everybody wanted to get in and on the inside everybody wanted to leave and it was this very strange dynamic where I realized, this was maybe not the best idea, and I left after seven months and three days. Other people down the hall told me, it's really reassuring to see you leave, Peter, I had no idea that it was possible to escape from Alcatraz, which of course all you had do was go out the front door and not come back. But so much of people's identities got wrapped up in winning these competitions that they somehow lost sight of what was important, what was valuable. Competition does make you better at whatever it is that you're competing at because when you're competing you're comparing yourself with the people around you. I’m figuring out how to beat the people next to me, how do I do somewhat better than whatever it is they're doing and you will get better at that. I'm not questioning that, I'm not denying that, but there often comes this tremendous price that you stop asking some bigger questions about what's truly important and truly valuable. Don't always go through the tiny little door that everyone's trying to rush through, maybe go around the corner and go through the vast gate that nobody is taking. Q: Do you have any ways to determine the difference [between a monopoly and a non monopoly] when looking at an idea or thinking about your own idea? A: I would say the question I always focus on is what is the actual market? So not what's the narrative of the market, because you can always tell a fictional story about a market: it's much bigger much or smaller, but what is the real objective market. So you always try to figure it out, and you realize people have incentives to powerfully distort these things. Q: So which of the aspects, of all these you mentioned, you would you say is applicable to Google? A: Well, they have they have network effects with the ad network, they had proprietary technology that gave them the initial lead because they had the page rank algorithm, which was an order of magnitude better than any other search engine. They had economies of scale up because of the need to store all these different sites, and at this point you have brand, so Google has all four. Maybe the proprietary technology is somewhat weaker at this point but definitely it had all four, and maybe three and a half out of four now. Q: How does this apply to Palantir and Square? A: That's sort of a set of companies that are doing different copycat payment systems, on mobile phones, there's Square, there's PayPal, they have different shapes that's how they differentiate themselves, one is a triangle, one is a square. Maybe at one point the apes run out of shapes or something like that, but at Palantir we started with a focus on the intelligence community, which is a small submarket. We had a proprietary technology that used a very different approach where it was focused on the human computer synthesis, rather than the substitution, which I think is the dominant paradigm. So, there is a whole set of things, I would say, on the market approach and on the proprietary technology. Q: What do you think about lean startups? A: So the question is what do I think about lean startups and iterative thinking where you get feedback from people versus complexity that may not work. I'm personally quite skeptical of all the lean startup methodology. I think the really great companies did something that was somewhat more of a quantum improvement that really differentiated them from everybody else. They typically did not do massive customer surveys, the people who ran these companies sometimes, not always, suffered from mild forms of Aspergers, so they were not actually that influenced, not that easily deterred, by what other people told them to do. I do think we're way too focused on iteration as a modality and not enough on trying to have a virtual ESP link with the public and figuring it out ourselves. I would say the risk question is always a very tricky one, because it's often the case that you don't have enough time to really mitigate risk. If you're going to take enough time to figure out what people want, you often will have missed the boat by then. And then of course there is always the risk of doing something that's not that significant or meaningful. You could say that a track in law school is a low risk track from one perspective, but it may still be a very high risk track in the sense that maybe you have a high risk of not doing something meaningful with your life. We have to think about risk in these very complicated ways. I think risk is this complicated concept. Q: Doesn't the last mover advantage already imply that there's competition to begin with? A: Yes, there's always a terminology thing. I would say that there are categories in which people sort of are bundled together. The monopoly business, I think they really were a big first mover. In some sense you can say Google was not the first search engine, there were search engines before. But on one dimension they were dramatically better than everybody else. They were the first one with page rank, with an automated approach. Facebook was not the first of social networking site. My friend, Reid Hoffman, started one in 1997, they called it Social Net, so they already had the name social networking in the name of their company seven years before Facebook. Their idea was that it going to be this virtual cyberspace were I'd be a dog and you'd be a cat and we'd have all these different rules about how we interact with each other in this virtual alternate reality. Facebook was the first one to get real identity, so I hope Facebook will be the last social networking site. It was the first one in a very important dimension, people often would not think of it as the first because they sort of lump all these things together. Q: If someone worked at Goldman Sachs out of college and left after six months and is now studying CS at Stanford, how would you recommend rethinking their competitive advantage? A: I am not great at the psychotherapy stuff, so I don't quite know how to solve this. There are these very odd studies they have done on people who go to business school, this one was done at the Harvard Business School where it's sort of the anti-Asbergers personality, where people are super extroverted, generally have low convictions, few ideas and you have sort of a hothouse environment you put all these people and for two years and at the end of it, they systematically end up, the largest cohort systematically ends up doing the wrong thing, they try to catch the last wave. in 1999 everyone tried to work with Mike Milken, this was a few years before he went to jail for all the junk bond stuff. They were never interested in Silicon Valley or tech except for 1999, 2000 when they timed the dotcom bubble peaking perfectly. 2005 to 2007 was housing, private equity, stuff like this. This tendency for us to see competition as validation is very deep, I don't think there's some easy psychological formula to avoid this. I don't quite know how what sort of therapy to recommend. My first starting point, which is only going to be maybe ten percent of the way, is to never underestimate how big a problem it is. We always think that this is something that afflicts other people. We always point to people in business school, people at Harvard or people on Wall Street, but it actually does afflict all of us to a very profound degree. We always think of advertising as this thing that works on other people, for all the stupid people who follow ads on TV, but they obviously work to some extent and they work to the disturbing extent on all of us and it's something we must work to overcome. Thank you very much.

  • 「起業家に必要な5つのこと」 イーロン・マスク カリフォルニア大学卒業式典スピーチ Elon Musk USC Marshall Undergraduate Commencement Speech

    イーロン・マスクは、南アフリカ共和国・プレトリア出身のアメリカの起業家であり、テスラ・モーターズ社、スペースX社のCEOである。PayPal社の前身であるX.com社を1999年に設立した人物でもある。 次々と事業を立ち上げ、成功させている起業家イーロン・マスクに対して世間では様々なイメージを持つかもしれない。 しかし、カリフォルニア大学の卒業式典でのスピーチで檀上に立つ彼は、意外にも控え目で物腰柔らかい印象を与える。 そんな彼が、卒業生達に向かって言葉を丁寧に選びながら語る5つのアドバイスとは… 1.スーパーハードに働くこと まず言いたいことは、「スーパーハードに働く」ということです。何を仕事にするかにもよりますが、特に最初の職場ではとにかく忙しく働く必要があります。「スーパーハード」とはどういうことでしょうか? 弟と私が起業したときは、アパートの代わりに小さなオフィスを借りて、寝泊まりをしていました。シャワーはYMCAで済ませていました。とにかく大変で、コンピュータも1つしか持っていませんでした。昼にWebサイトを更新し、夜はプログラミングをしていました。毎日、どんなときも。 当時いたガールフレンドもオフィスで寝泊まりしていたほどです。起きてる時は常に働く。特に起業する人には言っておきたいことです。他が週に50時間働くなら自分は100時間働く。そうすると会社としては、本来の2倍仕事量をこなせたことになります。 2.グレートな人達と働くこと 次に言いたいのは、起業するにしても就職するにしても何より大事なのは、グレートな人達を引きつけるということです。 素晴らしいと思えるグループに参加するにしても、会社を作るにしても、グレートな人達を集めるというのは必須です。いかなる会社も、商品やサービスを生み出すために集められたグループなのです。 グループの仕事を信頼し、正しい方向において結束することが会社に成功をもたらします。ですから起業するのであれば、何がなんでもグレートな人達を集めましょう。 3.商品や、サービスに焦点をあわせること 3つ目、雑音にも注意しなければなりません。商品の改善に関係のないことにお金を使ってしまったりと、これには多くの会社が混乱していますね。 例えばテスラでは、一切宣伝にお金を使いません。商品である車そのものを良くするため、全てのお金は研究開発とデザインに使います。これこそが正攻法だと思います。 いかなる会社においても、「努力がいい商品やいいサービスというかたちで、結果に表れているか」。これを常に考えなければいけません。結果が出ていなければ、その努力はやめる必要があります。 4.流行に流されないこと 4つ目は、「流行に流されない」ということです。ちょっと言いにくいのですが、「体や原則で考えろ」というようなことです。というのも、憶測で理由付けをするより、自分に考えることのできる最も基本的な事実に要約して、そこから理論を導きだすということです。 これは、本当に意味のあることなのか、ただ他人がやっていることなのかを判断するいい方法です。全てに対してその考え方が使えるわけではありませんし、結構な努力が必要なので難しいのですが。しかし、何か新しいことがやりたいのならこれは最善の方法だと思います。 5.リスクをとること 最後に言いたいことは、今こそリスクをとる時だということです。あなた達にはまだ子どもがいませんよね? それから債務も。 歳をとるにつれ、やらなければいけないことは増えます。家族を持てば、自分自身だけでなく家族のためにもリスクを負わなければなりません。難しいことに取り組むことは、より困難になります。ですから今こそが、チャンスなのです。 こういった義務に取り組む前に、今リスクをとってほしいのです。大胆にやりましょう。あなた達ならできます。 …いかがでしたでしょうか? たとえ事業領域が最先端テクノロジー分野であったとしても、 成功のために必要な原則は、普遍的でアナログなことなのかもしれません。

  • ソフトバンクのビジョンを支える財務戦略

    ソフトバンクの孫正義社長はニケシュ・アローラ氏を5月11日、決算発表の場で後継者指名しました。 ニケシュ・アローラ氏は、米Google本社の上級副社長兼最高事業責任者を務めた人物です。 次の世代への事業承継を本格始動させた稀代の名経営者、 孫正義氏の下には、その志に感銘を受けた経営者たちが 世界中から集まってきています。 その孫正義氏の歩みは、驚異のエピソードで溢れています。 ・高校入学後3ヶ月で中退し、単身渡米 ・米国で高校を2週間で切り上げ、大学に編入 ・大学では寝る時間以外は常に勉強 ・世界で一番勉強したと述べている ・大学在学中に大学教授達を雇い、自身の発明で1年半で3億3千万円を稼ぐ ・パートナーに上記会社を後払いであっさりと売却し、単身帰国 ・資本金1000万円でソフトバンクを立ち上げ、わずか1年で年商30億企業にする ・米国Yahooがまだわずか社員6名の時に発掘、筆頭株主となる ・ビルゲイツを抜き、3日間だけ世界一の富豪になった ・世界一遅い、高い日本のインターネットを世界最速、世界最安料金レベルにまで改善 ・ボーダフォンジャパンを1.75兆円で買収し、V字回復 ・米3位の通信会社、スプリント・ネクステルを1.8兆円で買収 ・創業期から出資していたアリババが米上場(時価総額世界22位 2015.4) ・アリババは32.4%(2014.9)の持株比率でソフトバンクが筆頭株主 そして、ついに後継者としてニケシュ・アローラ氏を指名し、 孫正義氏は事業の総仕上げに取りかかろうとしています。 いままでもそうでしたが、グローバルにM&A、投資をますます活発化させるという。 ソフトバンクは財務戦略に強みのある会社です。 これからのソフトバンクは、ますます投資会社としての色合いを強めていくでしょう。 いままでも、日本の超低金利の銀行借入を利用し、自社より大きな会社の買収を行うなど、 チャンスを活かし最大限にレバレッジを効かせた攻めの経営で、 大きく飛躍、成長、収益の最大化を果たしてきました。 また、FA債(メインバンクの管理下におかれない社債)を日本で初めて発行したり、 創業期のステージで取得した企業の株式を担保にして資金を調達するなど、 柔軟な財務戦略を実行してきています。 社債は個人投資家からも人気が高く、 様々な資金調達方法を自由自在に操り、個別の事業リスクに合わせた投資を行っています。 孫正義氏の志す情報通信革命は、 積極的で柔軟な資金調達に支えられてきました。 いままでのソフトバンクの事業は、ブロードバンド、モバイルキャリアなどの加入者数が確保できれば、 安定した収益をあげられるインフラ事業です。 今後、これらの事業の債務の返済が(いままで成功させてきたように)完了すれば、 ソフトバンクは豊富な安定した資金源を持った投資能力の非常に高い会社になります。 その時、ソフトバンクは資金調達の巧みな財務戦略会社から、 資金供給元としての財務戦略会社として進化し、 若く意欲的な経営者達のプラットフォームとして、 新しい時代を切り開いていく基盤になっていくのではないでしょうか。 ソフトバンク自らも、ソフトバンクアカデミアを開校し、 広く社外からも人材を募り5000人の事業経営者を育てていくということです。 これからもソフトバンクの事業活動からは目が離せません。 おさらいとして、2011年の会社説明会で孫正義氏が自ら経営ビジョンを語る映像をご覧ください。 穏やかながら、力強いプレゼンテーションに惹きつけられる方も多いことでしょう。

  • イノベーションを阻むものは何か

    「イノベーションにより変化に積極的に適応することが、企業が生き残る唯一の方法である。」 いたるところでイノベーションの必要性が語られ、 現代の企業家のミッションはイノベーションを起こすことであるといっても過言ではないでしょう。 破壊的イノベーション、持続的イノベーション、プロダクト・イノベーション、プロセス・イノベーション、組織イノベーション、マーケティング・イノベーション、バリュー・イノベーション…そして、イノベーションのジレンマ…。 もはや、イノベーションに取り組む前に、イノベーションの洪水に飲み込まれてしまいそうです。 では、私たちはイノベーション理論の海に飲み込まれてしまう前に、一体どのようにイノベーションに取り組んでいけば良いのでしょうか? ここでは参考として、 実際にイノベーションに取り組んだ企業が直面したイノベーションの阻害要因が何だったのかについて、 中小企業白書(2015年)のデータから考えてみましょう。 まず、大企業においては、 「能力ある従業者不足」が突出して高い比率になっています。 この点は、大企業は個別分野においてのエキスパートは多く抱えているものの、 ひとつの事業を新たにゼロから立ち上げられる起業家的人材、 事業をワンパッケージとしてハンドリングできる経営者的人材については、 不足していると考えられるのではないでしょうか。 組織が大規模になると、 細分化された職務の中にポテンシャルの高い人材が埋もれてしまう構図が読み取れます。 また、企業側が冒険的な取り組みに対する許容度合が低く、 停滞、失敗を個人の責任として処理してしまっているということも考えられます。 一方、小規模事業者については 「社内・グループ内資金不足」や「社外・グループ外資金不足」、「イノベーションのコストが高すぎること」といった、 資金についての項目が顕著に多いことがわかります。 中規模企業に関しては、 大企業と小規模事業者の双方の特徴を兼ねているといったところで、 「社内・グループ内資金不足」が最も高く、次いで、「能力ある従業者不足」となっています。 資金不足に関しては、オスロ・マニュアル(イノベーション調査の国際ガイドライン)に 中小企業のイノベーションについて、「金融」が大きな課題であるという記載があるように、 中小企業、特に、小規模事業者のイノベーションの活発化に向けた資金調達の重要性が浮き彫りになっています。 中小企業のイノベーションの成否は、 円滑な資金調達、事前に様々なケースを予測した柔軟な財務戦略が鍵を握っていることは間違いないでしょう。 未来を展望し、世の中の仕組みを変えてしまうようなイノベーションを実現することは容易ではありませんが、 必要な資金を計画的に調達することは周到に準備することによって十分実現することが可能です。 まずはイノベーションを支える財務戦略を一歩一歩、構築することから始めましょう。

  • M&Aで評価される事業と経営者に求められる出口戦略

    生物に寿命があるように、事業にも寿命=事業ライフサイクルがあります。 経済産業省の調査によれば、1980年代にはヒット商品の製品ライフサイクルは3~5年以上ありましたが、現在では1~2年未満にまで短縮されてきています。事業ライフサイクルについても、年々短縮化、陳腐化のスピードが早くなってきており、Apple、Microsoft、Google、Facebookなどの圧倒的勝ち組企業であっても危機感を隠そうとしていません。 ただし、生物の寿命と異なるのは、企業の場合、その寿命を延ばしていくことができることです。企業の生存年数を左右する要因には、技術の進化、ライバルとの競争、破壊的イノベーションの導入、市場環境の変化などがありますが、衰退していく旧事業に代わる新事業を育てていき、新しい事業ライフサイクルの波に乗り移っていくことで克服することができます。それは、さながら細胞組織の新陳代謝のようなものと言えるでしょう。 それでも、倒産や廃業をする会社が多いのは、日本の場合、特に経営者の高齢化という課題があります。現在、日本の経営者の全体に占める割合でもっとも多い年齢層は60歳~64歳となっており、70代も過去最高の高い割合となっています。経営者の高齢化に伴い、モチベーションが減退したり、後継者がいないなどの問題が増えてきています。日本には 約400万社の企業があり、その大半はオーナー経営者であることから、「社長の引退時期=会社の寿命」と重なることが多くなっています。 その一方で、日本でもM&A(企業の合併と買収)によって事業を拡大していく経営モデルも珍しくなくなってきました。いまではグループ全体の売上高が 8兆6千億円を超す「ソフトバンク」も、資本金1000万で1981年に創業し、1994年7月に株式公開をした後、柔軟な資金調達によって積極的にM&Aを行うことで、事業を拡大してきました。 (ソフトバンクグループが買収してきた主な企業) 1994年3月 ・・・・ 米コンピューターソフト会社、フェニックステクノロジーズを3000万米ドルで買収 1994年11月 ・・・ ジフ・デービス・コミュニケーションズから展示会部門を200億円で買収 1995年2月 ・・・・ 世界最大のコンピューター見本市「コムデックス」を運営するインターフェイス・グループから同展示会部を800億円で買収 1995年11月 ・・・ コンピューター関連出版最大手の米ジフ・デービス・パブリッシングを2100億円で買収 1995年11月 ・・・ 米ヤフーに200万ドルを出資 1996年1月 ・・・・ 日ヤフーを米ヤフーと共同で設立 1996年3月 ・・・・ 米ヤフーに6375万ドルを追加出資 1996年6月 ・・・・ 豪ニューズ社と合弁会社を設立し、旺文社メディア(100%)を417億円で買収、全国朝日放送の筆頭株主(21.4%)に 1996年8月 ・・・・ 米パソコン用メモリーボード大手のキングストン・テクノロジーを15億800万ドルで買収 1996年12月 ・・・ トレンドマイクロに35億円を出資(35%) 1997年3月 ・・・・ テレビ朝日株式を間接保有するソフトバンクと豪ニューズ社の折半出資会社ソフトバンク・ニューズ・コープ・メディアの全株式を朝日新聞社に売却 1998年7月 ・・・・ 米ヤフーに345億円を追加出資 1998年7月 ・・・・ 米Eトレードに565億円を出資(27.2%) 1999年7月 ・・・・ 96年に買収した米キングストン・テクノロジー株式を創業者に売り戻す(4億5000万ドル= 547億円) 1999年9月 ・・・・ ソフトバンク・ファイナンスを通じて、米投信評価大手のモーニングスターに資本参加(9100万ドル= 111億円) 2000年1月 ・・・・ アリババ・ドット・コムにおよそ2000万ドルを出資すると報じられる 2000年6月 ・・・・ 米Nasdaq、大阪証券取引所とナスダックジャパンを設立 2000年9月 ・・・・ オリックス、東京海上などと組み、日本債券信用銀行を買収、48.88%を出資 2001年7月 ・・・・ 東京めたりっく通信を45億円で買収 2003年9月 ・・・・ あおぞら銀行(旧 日本債券信用銀行)の持ち分(48.88%)を1011億円で米サーベラスに売却 2004年7月 ・・・・ 日本テレコム(売上高 3472億円)を1433億円で買収 2004年11月 ・・・ 福岡ソフトバンクホークスを200億円で買収すると基本合意 2005年2月 ・・・・ ケーブルアンドワイヤレスIDC(売上高 713億円)を123億円で買収 2005年2月 ・・・・ ソフトバンクインベストメントが増資、連結子会社から外れる(出資比率が46.9%から38.9%に低下) 2005年10月 ・・・ Tao Bao Holding limited 株式を417億円で売却 2006年3月 ・・・・ ボーダフォン日本法人(売上高 1兆4700億円)をヤフーと業務提携して1兆7820億円で買収 2006年11月 ・・・ ソフトバンク、ニューズコーポレーショングループ、合弁会社マイスペースの設立合意 2008年4月 ・・・・ 日本テレコムインボイス(売上高 148億円)を255億円で買収(出資比率 14.9% → 100%) 2010年8月 ・・・・ ウィルコムとスポンサー契約を締結 2012年10月 ・・・ イー・アクセス(売上高 2047億円)を1800億円で株式交換により完全子会社化。ソフトバンクモバイルとイー・アクセスが業務提携 2013年4月 ・・・・ ガンホー・オンライン・エンターテメント(売上高 258億円)を249億円で子会社化 2013年7月 ・・・・ 米携帯電話3位のスプリント(売上高 3兆4000億円)の株式の78%を1兆8000億円で買収 2013年11月 ・・・ フィンランドのモバイル端末向けのゲーム事業(売上高 105億円)を展開するスーパーセル株式の51%を1514億円で買収 2014年1月 ・・・・ 携帯端末の卸売事業を展開する米ブライトスター(売上高 625億円)の全株式を1100億円で買収 2014年9月 ・・・・ アリババグループ・ホールディングがニューヨーク証券取引所に上場し、約8兆円の含み益となる 2014年11月 ・・・ インド通販大手のスナップディールに680億円を出資 ソフトバンクにはいくつかの象徴的な投資案件があります。ヤフーへの出資が通信事業者としての地歩を固めることにつながり、それがボーダフォン買収を呼び込み、アリババへの出資が膨大な含み益を生み、それが米Sprint買収につながっています。こうしてそれぞれは関連し合い、先々の事業へとつながっているのです。 M&Aの利点は、ビジネスをゼロから育てていく時間を省いて、有望事業のノウハウや顧客などを取り込めることにあります。反面、買収先との人間関係が難しいなどの理由で、日本の企業風土に馴染まないと指摘されることもありましたが、いまは終身雇用の時代ではなくなっていることから、M&Aを肯定的に捉える風潮が濃くなってきています。 今後、M&Aは、スモールビジネスにも広がっていくことが予測されています。背景にあるのが、冒頭の「製品・サービスのライフサイクルの短縮化」に対応していくために中小企業であってもより機動性の高い経営を行っていく必要があること、またクラウドファンディング等に象徴される「資金調達方法の多様化」の流れによって投資家からの資金を調達しやすくなってきたこと、さらに先述の「経営者の高齢化に伴う事業承継の増加」が挙げれます。 銀行等からの借入とは違い、投資家からの出資に対しては、銀行債務の返済のように、あらかじめ還元方法が決まっていません。投資家の期待に対して、どのように投資リターンでもって応えていくのかについては、経営者側がビジョンを描き、説明することが求められます。投資家が経営者に期待するゴールには、株式上場まで行かなくても、軌道に乗り始めた事業を他社に売却して、短期でキャピタルゲインを得ることもあります。 上記は2014年新規上場企業数とM&A件数との比較です。単純に数を並べただけですが、投資家にとって資金回収の出口の数、つまり選択肢が上場以外にもこれだけあるということです。投資家の選択肢を増やすという目的だけであっても、M&Aによる「出口戦略」によって企業価値を高めることができるのか検討してみるべきでしょう。また、あくまで上記のM&A件数は中堅以上の公表された案件のみの件数のため、中小企業のM&Aの実態は、相当数になってきていると考えられます。 経営者にとっては、自分の事業を自ら長く存続させていくことが理想かもしれませんが、状況によっては、「売却」もできる出口戦略を用意しておくことが、投資家や金融機関からの評価を高めることになります。また事業譲渡によって買収先に経営が引き継がれた際には、既存取引先との関係、従業員の雇用を守ることにも繋がり、次の事業に進んでいくためにも、リタイア後の充実したセカンドライフにもプラスになるでしょう。さらに買収側、売却側双方にとっても、また対象事業にとっても、ひとつの出口戦略は新しい戦略の始まりを意味しています。 そこで重要になるのが、どんなビジネスが高く評価されるのかという特性を把握しておくことです。売上が数億円あっても買い手が付かない事業もあれば、売上がゼロでも、大手企業から莫大な金額で買収されるスモールビジネスもあります。 M&Aで買収側企業に評価される企業、事業の特徴はおおよそ下記のいずれかの類型に分けられます。 ①優秀な人材型 優秀な人材を抱えている企業は当然魅力があります。 ここでいう優秀とは、容易に模倣できないNo.1技術、サービス、ノウハウなどを持っているということです。 競争に強いというより、競争すら必要としないレベルでの技術、サービス、ノウハウを持っているチームであれば、販路を確保している企業との相乗効果によって大きな飛躍が見込める可能性があります。この類型の場合、既に商品化できており、少ないながらも販売実績があるかどうかも重要になります。 ②特定顧客層へのリーチ型 例えば20代前半の女性からの強い支持を受けている、美容室500店舖にサービスを導入している、大手機械メーカーに特定部品を納入している、店舗の立地が良い、ユーザー数が多いなど、特定の顧客との密接なつながりのある企業は、その市場に参入したい企業から高く評価されます。 ③安定収益型 継続的な収益が将来的に安定して得られることが予想される企業は価値がつけやすいといえます。M&Aが成立した際に双方のメリットが大きいケースとしては、譲渡される事業が事業自体の収益力はある(つまり営業利益はでている)が、債務過剰のため返済負担などでキャッシュフローが悪化しており、追加での資金の調達ができず拡大が見込めない場合などに、買収側企業の健全な財務力によってマイナス面が解消されることによって、生産性が向上するケースなどがあります。 まずは自社の価値を経営者自身が把握し、短期的な収益増を追いかけるだけではなく、自社のビジネスモデルを強化していく取り組みが必要となります。またM&Aによる事業の拡大だけではなく、機動性の高い経営を行っていくために自社の強みが十分に活かせていない部門については事業の売却を通じて、より将来性の高い部門への資源の再配分を検討することも必要です。 現代の経営者には、事業ライフサイクルの波を自在に行き来しつつ、それと同時に将来の核となる企業能力を入念に育てていける広い視野と深い洞察力、構想力、そしてここぞというときの思い切りの良さが求められています。

  • 野生の思考:混沌に対応するためのブリコラージュという概念

    科学の発展によって、20世紀以降、文明は目覚ましい飛躍を遂げてきました。 21世紀に入るとインターネットの普及により更に加速度的に発展をしていこうとしています。  インターネットはPC、携帯電話にとどまらず、自動車、家電製品、住宅、衣類、雑貨などあらゆるものと接続されようとしています。また人工知能(AI)についても2030年までには、人間の知能を超えることが予測されています。さらに、人間の脳と人工知能が接続され人間の知能そのものが飛躍的に強化されるのではないかとも言われています。  人類の発展を支えてきたのが、17世紀以降に確立された「科学的思考」と呼ばれる論理的、数学的な思考方法です。ビジネス、経済の世界においても科学的思考は大規模工業化にともない経営管理手法として取り入れられ洗練されてきました。  しかしながら、科学の大きな進歩によって自然環境を制御する力を得つつあるにも関わらず、社会的、経済的には不確実性がますます高まり、半年先のことをおおよそ予測することも困難を極めます。精緻な経済理論は、スーパーコンピューターの力を借りても将来の景況、バブルの発生や崩壊について未だ言い当てることはできません。まともな推測すらできないのが現状です。また、企業経営分野においても経営理論は大きく進歩し、既存事業の管理手法などについては一定の成果が出ているものの、イノベーション、戦略転換、起業といった動態的分野においては理論的に説明のつかないことがまだまだ多いのが現実です。経営者の資質や創造性といった人間の内面に、核心的な答えは隠されたままとなっているのです。  さらに、近年のインターネットの普及にともない業界間の障壁、差異が消失したため、多くの業界が多数混戦状態となっていることも不確実性を高める要因となっています。どの業界でもWebチャネルを通じての異業種から新規参入企業、または新興企業に市場が浸食されていることに加え、将来的にはGoogle、Amazon、Facebookなどの巨大IT企業が競合として参入してくることも想定し、戦々恐々としている状況です。  科学技術の発展によって、人類は次なる未知の領域に踏み入れていっています。しかし、いかに科学技術が高度に洗練されようとも、そこにはまた新たな「混沌」が待ち構えています。  いままでの論理では説明のつかない新たな混沌に対して、高まる不確実性に対して、急速な変化に対して、私たちは一体どのように対応していけばよいのでしょうか。  混沌に臆することなく対応するための具体的な論理、または方法を、私たちが本来備えている直観に基づく思考、すなわち「野生の思考」の中に見つけることができます。 |科学的思考とは何か?  まず、近代以降の人類の多くの達成の実現に貢献してきた「科学的思考」とはどのような思考方法なのでしょうか。  科学的思考は、16世紀から18世紀にかけてのヨーロッパを直接の起源としています。科学的思考は、コペルニクス、ベーコン、ガリレイ、ケプラー、デカルト、ニュートン、ライプニッツといった自然哲学者たちによって確立されていきました。宗教によって縛られていた合理的な考え方を、「理性」と「感性」を切り離し、宗教的、神秘的な考え方から分断することによって、科学的思考を確立することが可能となったのです。  真実とは数学的、物理的に計測可能なものであると限定し、感性の世界、つまり見て、触れて、嗅ぎ、味わい、感じるものを「あいまいなもの」であるとして否定することによって、近代科学は生まれました。  科学的思考の方法は、要約すると、 ①明証的に真実であると認められるものごとだけを判断基準とし、 ②複雑な問題についてはより単純な問題に分解して考察し、 ③論理的に妥当な証明の連続という推論過程を経て、 ④最終的に全体を検証し統合する、 「要素還元的方法」をとります。 問題を部分に分解して、立証していくことが科学的思考の大きな特徴といえるでしょう。  そして、単純な証明からはじめて、より複雑な証明のために長い年月をかけて、一つずつ積み上げていくという点において、科学的思考は「伝統的」「歴史的」「連続的」な思考方法ともいえます。科学的思考は、先端的であると同時に400年以上の長い時間軸(さらにたどれば紀元前ギリシャのユークリッド幾何学、さらには古代のバビロニア数学まで遡ることができる)に支えられた思考方法なのです。 <科学的思考の特徴> ◆問題を小部分に分解し、「還元主義的」に詳細を考察 ◆直感的な「感性の世界」を切り離し、数学的、物理的証明に特化 ◆論理的に妥当な推論を導き出し客観的に理解 ◆証明に変更を加えるには反証が必要 |野生の思考とは何か?  野生の思考は、近代科学から分断されてしまった感覚的思考をむしろ重視した思考方法だといえます。 “ 現代 ”の科学は、近代以降「あいまいなもの」であるとして切り捨てられてきた人間の感覚やイメージすらも、その範疇に取り込みつつあります。科学技術が大きく飛躍していこうとしている今こそ、野生の思考を再考すべき段階に来ています。  人類学者であり、構造主義の観点から西洋中心主義を批判したクロード・レヴィ=ストロースはアメリカ先住民族の部族観察から見出した思考形態を、ヨーロッパ由来の科学的思考と対比させ「La pensée sauvage(野生の思考)」と呼びました。  アメリカ先住民族は文字を持たず、西洋の価値観と全く異なったため、当初多くの民族学者も含めた西洋人は彼らを「単純で粗野な未開人」であると偏った見方をしていました。 ナヴァホ族の男。ナヴァホ族は北米南西部に先住するインディアン部族の一つ。エドワード・S・カーティスによって1904年に撮影された。  しかし実際には、彼らは周囲の環境に対する知識について西洋人の認識、想像を超えたレベルで認知していました。たとえば、代表的なアメリカ先住民族であるナヴァホ族は500種類もの植物種を識別し、それぞれに名称を与えていました。フィリピン南部のスバヌン族の植物語彙は1000語を超え、ハヌノー族は2000語に近いと言われています。現代社会に属する私たちのほとんどは、それらの語が何を指しているか区別すらつかないでしょう。しかし彼らの分類方法は、現在の植物学と比較しても体系的で極めて正確なものだと言われています。また、栽培育成方法に関しても原種の保存、交配に関して高い技術を維持していました。  さらに、盲目的で神秘主義的で非科学的な風習と見られていた多くの慣習についても、科学的思考とは異なる考え方ながら、論理的な構造を持ち、社会的な効率性を備えた集団行動であることが確認されています。 レヴィ=ストロースは主著『親族の基本構造』において、数学者アンドレ・ヴェイユ(数学者集団ブルバキの一人。数学に構造の概念を導入した。)とともに、オーストラリアの先住民族であるカリエラ族の婚姻規則の中に、抽象代数学の中心的な概念である「群」の変換の構造と同じ構造(この場合はクラインの四元群の構造)が認められることを示しました。 野生の思考も科学的思考とは異なるアプローチではあっても、(無意識的であったとしても)そこに知的な構造があることが認められるのです。  野生の思考と科学的思考の大きな違いは、「無秩序」に直面した時に表れます。無秩序とは、すなわち混沌とした世界です。  「科学的思考」はリスクや失敗には寛容になれます。なぜなら証明の過程においてそれらは通過しなくてはならない事柄だからです。しかし、無秩序だけはそのまま許容することができません。科学的思考は明らかな事実から始めて、物事を論証によって正確に秩序立てることが求められる思考法だからです。無秩序に直面した際に、科学的思考は秩序立てる道筋が得られるまで、その対象を分解していくことを選びます。そして、無秩序を分解し、別の概念に置き換えて説明できるものに変えていきます。  しかし、社会的な事柄や、文化に関することなど様々な要素が複雑に絡み合っている場合、また過去に事例のない事柄に直面した際には、問題をより低いレベルの小部分に分解できないこともあります。仮に分解できたとしても、“ある特定の限られた条件下において”という前提が必要となる場合もあるでしょう。そのような特殊な前提の導入は事実を極端に歪めてしまう危険性もあります。そして、科学的思考による分解と証明の工程には、非常に長い時間と厳密な努力が必要とされます。  一方、「野生の思考」は無秩序に直面したとき、その状況をあるがままに鷲掴みにして、その場で全体として「直観的に把握」します。そして鷲掴みにした直観的把握に基づいて、事態を恣意的に(ときには偶然に従って)分類します。分類することによって理解するより前に、実際に生活圏に取り込んでしまうのです。その上で対象となる出来事や物事に恣意的なイメージを持った記号を与えて、その記号を用いて他の出来事や物事と組み合わせていきます。様々な組み合わせを試み、変換を繰り返して徐々に消化していくのです。 たとえば、オーストラリアのオセージ族は動物や物事を空/水/地の三つのカテゴリーにわけています。三つのカテゴリーに含まれている下位のカテゴリーである鷲/鷹/熊/亀/太陽/星...などは、具体的な構成要素であると同時に記号としても機能し、方角や気象、部族集団、人体の器官などとも紐づけられています。そして、部族内外で起きる社会的な出来事などの影響も受けながら、物事とイメージの組み合わせは緩やかに変換を繰り返します。 北アメリカ大陸の北西沿岸部の氏族が、家や墓の前などに建てるトーテムポールには、柱型の形状に様々な動物が彫られている。刻まれた動物は各氏族の出自や伝説を表しており、各氏族の特徴や他氏族との差異や関係性などを示す記号(コード)となっている。記号化された動物は、婚姻やその他の規則的な行動にともなって変換される操作媒体(=変数)の役割も果たしている。先住民族社会の多くでは、文字や数字を持たなかったため、このように特定のイメージを恣意的に与えた記号を用いて複雑な組み合わせや様々な体系、変化する関係性、つまり構造を表現した。トーテムポールは、先住民族社会における各氏族の膨大な情報が詰まったデータベースだといえる。  科学的思考は物事をとらえるのに、量に応じて決まる「数」や、個別の状況や性質に正確に対応する特定の「概念」によって一義的に説明しようと試みるのに対して、野生の思考は物事に動物や草木などの具体的かつ共通のイメージを持った「記号(コード)」を対象のシンボルとして割り当てることによって、類推的に物事を区別します。そして、物事に割り当てられた記号は、他の記号と可変的に組み合わせを作りだすことができます。時には、鷲や熊などのシンボリックなコードを用いて、儀式を通じて組み合わせの持つ意味を能動的に変換することも可能です(狩りや祭りなどの儀礼は、コードを用いて能動的に部族社会に影響を与える取り組みとなっているケースも多い)。 これらの分類、イメージ、記号、組み合わせに、仮になんら科学的な根拠が見られなかったとしても(たとえば神話。世界の神話の多くが混沌から、まず天と地を分類することから始まるのは象徴的に野生の思考の性質を表している)、差異を明確にし、分類整理され日常的に活用されることによって、物事の間に一定の関係性が生まれていることに、見過ごせない文明の萌芽があるといえます。野生の思考は、たとえ無自覚的であったとしても、記号の組み合わせの変換を繰り返すことによって、「あるもの」と「別のあるもの」を結びつけ、関係性の糸を編み上げることによって無秩序を構造化していくのです。  「科学的思考」が過去から連なる歴史の積み上げによる「理論的裏付けのための抽象思考(自然科学的秩序の解明)」だとすれば、「野生の思考」は同時的な構造の解釈による「現実的な実践のための具体思考(社会的関係秩序の導入)」だといえるでしょう。 <野生の思考の特徴> ◆詳細な分類によってそれぞれの差異を識別 ◆イメージによって無秩序をあるがままに全体として捕捉 ◆恣意的なイメージと結びつけられた記号(コード)を用いて他の事象と結合 ◆コードを操作媒体にして柔軟に変換を繰り返す |ブリコラージュによる柔らかな変換  レヴィ=ストロースは「野生の思考」と「科学的思考」の違いをより鮮明にするために、ブリコラージュという概念を用いました。  「ブリコラージュ」とは、ありあわせの道具や材料を間に合わせで用いて、目下必要なものを手づくりすることを意味しています。それらの道具・材料は、設計図にもとづいて準備されたり計画的につくられたものではなく、たいていは以前の仕事の残りものであったり、いずれ何かの役に立つかもしれないという理由でとっておいたものや、偶然そこにあったもの、本来の目的とは無関係に集められていた雑多なものの集まりです。 「ブリコルール(ブリコラージュする人)」はそれらの道具・材料の形や素材をそれぞれ吟味、検討して、本来の目的や用途とは異なる形で転用して、必要なものを作り出します。  レヴィ=ストロースは、野生の思考をブリコラージュ(器用仕事)、科学的思考をエンジニアの仕事に例えて、次のように比喩的に説明しています。 ❝ ブリコルールは多種多様の仕事をやることができる。しかしながらエンジニアとはちがって、仕事の一つ一つについてその計画に即して考案された購入された材料や器具がなければ手を下せぬというようなことはない。彼の使う資材の世界は閉じている。そして「もちあわせ」、すなわちそのときそのとき限られた道具と材料の集合で何とかするというのがゲームの規則である。しかも、もちあわせの道具や材料は雑多でまとまりがない。なぜなら、「もちあわせ」の内容構成は、目下の計画にも、またいかなる特定の計画にも無関係で、偶然の結果できたものだからである。すなわち、いろいろな機会にストックが更新され増加し、また前のものを作ったり壊したりしたときの残りもので維持されているのである。したがってブリコルールの使うものの集合は、ある一つの計画によって定義されるものではない。(定義しうるとすれば、エンジニアの場合のように、少なくとも理論的には、計画の種類と同数の資材集合の存在が前提となるはずである。)ブリコルールの用いる資材集合は、単に資材性[潜在的有用性]のみによって定義される。ブリコルール自身の言い方を借りて言い換えるならば、「まだなにかの役にたつ」という原則によって集められ保存された要素でできている。 ❞ (クロード・レヴィ=ストロース 著、大橋保夫 訳、『野生の思考』、みすず書房、1962、1976)  つまり、エンジニアは全体的な計画としての設計図に即して考案された、機能や用途が一義的に決められた「部品」を用いるのに対して、ブリコルールは「まだなにかの役にたつ」という原則によって集められた「断片」の集まりを、そのときどきの状況に応じて臨機応変に用います。 そして出来上がった「制作物」に関しても、エンジニアの用いた「部品」は全体と整合し完全に一体化するのに対して、ブリコルールの用いる「断片」の集合としての全体は十分に当初の目的を果たしながらも、寄せ集めであるがゆえに不均衡であったり、なにかしらの不整合が生じることが宿命づけられています。つまり、ブリコルールのつくりあげた「制作物」は、また次の再構築と用途変換が予定され、待機している状態にあるといってもよいでしょう。  「科学的思考≒エンジニアの仕事」は厳密であるがゆえに固定的です。「野生の思考≒ブリコラージュ」は可変的であり、むしろあらかじめ形質転換(transformation)を予定しています。 そして既に述べたとおり、「野生の思考」は混沌を前にしても与えられた状況の中で、その場で答えを出していくことができます。 この「可変性」と「即応性」が示す「野生の思考」の柔軟さは、科学的思考が論理や歴史認識に縛られているのとは対照的です。  野生の思考のこれらの特徴は、クレイトン・クリステンセンがイノベーターDNAの中核であると述べている「関連づける力」とも一致しています。また、エリック・リースが提唱し、近年ゼネラル・エレクトリックにも採用されたリーン・スタートアップの主要な概念である「ピボット」とも共通点があります。さらに、断片の寄せ集めがゆえの全体との不均衡・不整合は伊丹敬之が組織からイノベーションが生じるための条件として挙げている「ゆらぎ」をもたらす要因としてとらえることもできます。  ブリコラージュは次のプロセスで進みます。 ①まずブリコルールは、使える道具と資材に何があるかをすべて調べ上げ、吟味して(つまり、それらと一種の対話を交わして)、これらの道具と資材が成し得る可能性のすべてを「並置」します。 ②その上で、どのように用いることができるのか、類推的な「イメージ」によって全体像を掴みます。 ③そしてそのイメージに促されて、資材同士を「新たに結合」することによって新しい体系(関係性の集合)を構成し、資材は制作物として「新たな役割」を獲得します。  また、ブリコルールの仕事は決して終わることがありません。仕上がった制作物と断片の間にある不整合の改良を図るか、制作物を次の問題解決にあたっての部材として用いるか、あるいは解体し、再構成するというサイクルを繰り返していくのです。  ブリコラージュによる形質転換の概念は、シュンペーターのイノベーション理論、近年の戦略経営論の主要テーマであるダイナミックケイパビリティ(企業の変化していく能力)の実践にも有用な概念だと私たちは考えています。  私たちは「野生の思考」が「科学的思考」よりも優れた思考方法だということを示そうとしているわけではありません。しかし実際に「野生の思考」はいままでも「科学的思考」と併用されてきて、これからも十分に活用できる思考方法だという認識は必要でしょう。科学的思考が確立するまでの数万年にわたり、人類は野生の思考を用いて、土器、農耕、動物の家畜化、製鉄など文明の基礎となる発明をしてきました。確かに、科学的思考の厳密さは人類の発展にこれからも大きく貢献することでしょう。しかし、そのベースには直観的イメージの豊饒さに根ざした野生の思考があり、私たちはまたいつでもそれを使うことができるということを再度認識する必要があります。論理的な整合性にこだわるあまり身動きがとれないようであれば、野生の思考を用いてブレークスルーを図るべきなのです。  実のところ、科学ですら、直感的なひらめきやアイディア、過去の学説などをブリコラージュして取捨選択を試行錯誤しながら、発展してきたのです。科学の歴史を紐解けば、現代から見ると荒唐無稽にすら思える学説も過去には採用され、試されていた事例が多数あります。そしてまた、いまは棄却され忘れ去られた異端の学説が、将来、再発見され、もっとも鮮やかに事実を描き出す学説として採用され、主流となることも十分にあり得ます。  混沌、無秩序、または不確実性が高く不安定かつ流動的な状況において、もしくは新しい未知なるものの導入に際して、「野生の思考≒ブリコラージュ」は私たちに多様な選択肢と柔軟な姿勢、そして具体的行動をもたらしてくれるでしょう。 |変わり者が牽引した富士フイルムのイノベーション  「科学的思考」とあわせて「野生の思考」を用いて、大胆に事業転換を図った成功事例に、富士フイルムホールディングスの事例があげられます。 富士フイルムは、アナログカメラからデジタルカメラの移行に際して、写真フィルム市場の急激な縮小(総需要が10年で10分の1以下)という危機的な状況に見舞われましたが、鮮やかな事業転換によってイノベーションを成功させました。  写真フィルムの製造には化合物の合成に必要な原材料が100種類以上も含まれており、非常に複雑な製造技術を必要とします。デジタルカメラの普及によって、写真フィルムという製品需要のほとんどが失われてしまいましたが、富士フイルムはフィルム製造の要素技術を全て洗い出し、ブリコラージュにおける「断片」として全ての要素技術を「並置」することから始めました。  そして、「やれること」「やるべきこと」「やりたいこと」のイメージの共有を図り、組織を大胆に方向転換させて、デジタルイメージング事業、光学デバイス事業、高機能材料事業、グラフィックシステム事業、ドキュメント事業、メディカル・ライフサイエンス事業の6つの事業領域に再編しました。特に新機軸となるメディカル・ライフサイエンス事業には積極的に投資も行い、低分子医薬、バイオ医薬、再生医療の3分野に適応するように要素技術の結合を行い、事業を再構築したのです。  事業転換にあたって役員の一人は、「変わり者とバカ」という表現を用いて科学的思考の限界を乗り越えられるよう「野生の思考」を後押ししました。社員たちにとって、大きな環境変化は論理的に考えているだけでは容易に踏み出せるものではありませんでした。そこで、経営陣自らが、異分野への事業転換という無理な要求に対して自らが先頭切って「変わり者」になることによって、同調してくれる「バカ1」「バカ2」を徐々に巻き込んでいき事業転換への大きなうねりを生み出していきました。 |ホンダのアメリカ市場進出成功についての古典的論争  1975年、ボストン・コンサルティング・グループ(以下 BCG)は、ホンダの躍進によって急速に市場シェアを失っているアメリカのオートバイ市場における英国製オートバイの先行きを懸念した英国政府の依頼で、調査報告書を提出しました。  その報告内容は、「ホンダは資本集約的で高度にオートメーション化された製造技術によって国内生産規模を最大化し、規模の経済を実現して低コスト化に成功した。そして小型バイクという新しいカテゴリーを中産階級という新たなバイク顧客層に販売する市場セグメントにおいてポジションを確立し、そこからアメリカ市場を制覇した。」というホンダの科学的な市場分析、精緻なシェア獲得戦略、用意周到な計画を、ホンダの成功要因として説明しました。  そしてこの報告書は、戦略計画についての模範としてアメリカの多くのビジネススクールにおいて、ケーススタディとして使われるようになりました。  つまり、ホンダのアメリカ市場での成功は、科学的思考の成果であると評価されたのでした。  しかし、この説に疑問を抱いたスタンフォード大学講師のリチャード・パスカルは日本へ飛んで、アメリカ市場への参入を実行したマネジャーたちを取材すると、実際のマネジャーたちの話はBCGの説明とは大きく異なっていました。  「実は、アメリカで売れるかどうかやってみよう、という考え以外に特に戦略があったわけではないのです。」  1959年、当初ホンダは、本田宗一郎氏が自信を持つ250ccと350ccのオートバイでアメリカ市場に参入しようとしていました(当時のアメリカのオートバイ市場は黒の革ジャンのバイカーが顧客の中心の市場で、日常の生活移動手段としてのオートバイ市場はなかった)。当時の日本は大蔵省の外貨割当規制があり、ホンダがアメリカで投資できる現金はわずか11万ドルでした。  マネジャーたちはロサンゼルス郊外の安アパートで共同生活をしながら、荒れ果てた地域の倉庫で、オートバイを素手で組み立てました。  翌年、大型バイクがいくらか売れ出した矢先、彼らを「悲劇が襲った」のです。革ジャンのバイカーたちは、オートバイを長距離、高速で乗るため、ホンダのオートバイは壊れ始めてしまいました。「しかし同時に、物事は思ってもない方向に進んだのです。」  マネジャーたちはアメリカ市場の需要を考えれば、大型バイクに力を入れることが市場進出にとって必要だと考えていましたが、自分たちがロサンゼルスで営業用に乗っていた50ccのスーパーカブが注目を集めていることには気づいていました。それでも、男性的なバイカー市場に50ccバイクを打ち出すことは、ホンダのイメージを損なう可能性があるため販売を控えていました。「しかし、大型バイクが壊れだしたら、もう選択の余地はありませんでした。50ccを導入することにしたのです。」  以降、彼らはスーパーカブを大型バイクと同じように“商品”として、並置することを決断したのでした。  もともと予定になかったスーパーカブの販売を開始後、効果的なキャンペーンも相まってホンダスーパーカブは「生活者のための新しい移動手段」としてのイメージを獲得し、ホンダの売上は急増しました。1966年にはホンダは、輸入バイク市場で63%の市場シェアを獲得しました。 大反響となった「YOU MEET THE NICEST PEOPLE ON A HONDA (素晴らしき人々、ホンダに乗る)」キャンペーン  ホンダはアメリカ市場への進出に成功しましたが、これはBCGの報告のような「科学的思考」の成果ではなく現場での試行錯誤による「野生の思考」の成果といえるでしょう。  余談ですが、1977年、戦略論の権威であるリチャード・P・ルメルト教授は、ホンダの自動車での世界市場進出の可否について、MBAの最終試験で出題しました。「進出すべき」と答えた学生には落第点がつけられました。なぜなら、科学的視点でみれば市場は飽和状態で、ホンダは自動車に関する経験も販売チャネルも持ち合わせていなかったため、進出は合理的な判断とはいえなかったためです。  しかし、1985年には、彼の妻はホンダ車を乗り回すようになり、2015年度にホンダは自動車販売台数において世界第7位を獲得するまで成長しました。  (そして現在、ホンダは二輪車市場において販売台数、売上規模ともに世界首位となっています。) |未知なる時代に  企業経営において、イノベーションを起こしていこうとするのであれば、あらかじめ事前に論理的に説明できることばかりではありません。当然、目指す理想と現状にはギャップがあります。そのギャップを埋めるためには論理的に考えていては無理だと思えるような断絶を解消する必要もあるでしょう。ギャップ解消のためのサイクルを起動させる力が、つまり断絶や矛盾、無秩序を消化する力が「野生の思考」にはあると、私たちは考えています。  「野生の思考」は、イメージの媒介を経ることによって、非連続的な飛躍を実現します。  特に、0から1を生みだす際には(もしくは事業をゼロベースから再構築する際には)、「野生の思考」の視点は欠かせないものとなるでしょう。しかしそこには「0から1を生みだす」という語感に含まれる、まるで無から有を生みだすかごとくの神秘性はそこにはなく、あるのは確かな「手触り」のある試行錯誤です。  また今後将来、人工知能の発達によって科学的思考の大部分を人工知能が担うことになるのであれば、その時、人間に必要とされる思考形態として「野生の思考」の重要性はさらに高まっていくことでしょう。 参考文献: 『野生の思考』 LA PENSÉE SAUVAGE クロード・レヴィ=ストロース 1962 『神話と意味』 MYTH AND MEANING クロード・レヴィ=ストロース 1978 『方法序説』 DISCOURS DE LA METHODE ルネ・デカルト 1637 『シンギュラリティは近い』 THE SINGULARITY IS NEAR: When Humans Transcend Biology レイ・カーツワイル 2005 『戦略サファリ』 STRATEGY SAFARI: A GUIDED TOUR THE WILDS OF STRATEGIC MANAGEMENT ヘンリー・ミンツバーグ、ブルース・アルストランド、ジョセフ・ランベル 1998

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