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投資会社はどのように買収した企業の価値を高めるのか


投資会社はどのように買収した企業の価値を高めるのか


プライベート・エクイティ・ファンドとは何か?



 投資会社の中でも、特に本稿で説明するプライベート・エクイティ・ファンドは日本ではまだ新しいマネジメントサービスの形態です。


 プライベート・エクイティ・ファンドは、いわゆる「ファンド」のなかでは少し特殊な存在です。


 「ファンド」とは投資家から資金を集めて、その資金で企業や債券に投資を行いリターンを得ることで、投資家にリターンを還元する組織、仕組みです。ファンドの中でも日本で一番馴染みのある形態は「投資信託」でしょう。投資信託は厳格なルールに基づいて、株式公開企業、債券、不動産証券など市場で短期での売買が成立する流動性の高い投資先に投資を行っています。金融工学を用いた分散投資によるリスクコントロールが特徴です。


 一方、プライベート・エクイティ・ファンドは、投資家から集めた資金を“非上場企業”に投資を行い、投資対象企業の「本質的な企業価値の向上」を経営にも関与することで達成し、その結果得られるキャピタルゲインを投資家に還元するサービス会社です。通常、投資期間は3〜8年の長期保有が前提となります。また、経営の改善に自ら積極的に関与するために株式の過半数~100%を取得することが特徴です。


 ベンチャーキャピタルも、同様に非上場企業に対する投資を行いますが、主に創業期、成長期の企業に対してのマイノリティ投資(少数株主として出資)が中心となります。ベンチャーキャピタルもプライベート・エクイティ・ファンドの一形態ですが、ベンチャーの進取性という特性から創業者が株式の過半数以上を持ち、ベンチャーキャピタルの保有株は10%~20%程度にとどまります。経営への関与は、創業者のサポートとしての色合いが強いことが特徴といえます。


投資会社の形態と役割

 プライベート・エクイティ・ファンドは、現在の日本においても形骸化するメインバンクシステムに代わって企業への資金供給の担い手となり、業界構造の再構築、企業風土の変革、成熟企業のさらなる飛躍、コーポレートガバナンスの強化、事業承継における中継機能としての役割がより一層期待されてきています。

 しかしまだ日本のマスメディアでは、プライベート・エクイティ・ファンドは金融工学を駆使するヘッジファンドや、声高に株主還元を迫るアクティビスト・ファンド(いわゆる物言う株主)などと十把一からげに「ファンド」として扱われているため、誤解も多いのが実状です。そして、まだ日本においてはプライベート・エクイティ・ファンドは、特殊なサービス形態であるため、具体的にどのような活動を行っているのか一般的には認知されていません。


 そこで、本稿では多くの一般事業会社が抱えている課題と、プライベート・エクイティ・ファンドがどのように企業経営に関わり、本質的な企業価値を高めていくのかについて説明します。


 企業の価値を高めることによって収益をあげているプライベート・エクイティ・ファンドの方法論は、一般の事業会社のトップマネジントチームにとっても得られるものの大きい考え方となるでしょう。




事業会社が陥る「三つの罠」


 プライベート・エクイティ・ファンドの取り組みは、とてもシンプルな一つの目的の達成を目指しています。


それは「企業をより価値あるものにする」ことです。


「企業の価値を高めようとすることは当然のことではないか」と言われるかもしれません。

しかし、実際にこの目的に対して徹底的に取り組んでいる企業は、まだまだ少ないと私たちは実感しています。


 では、なぜ企業はわかりきったシンプルな目的に対して徹底的に取り組むことができないのでしょうか?


 そこには、一般事業会社が陥りやすい「三つの罠(わな)」の存在があります。



成熟企業もしくは衰退企業が陥る三つの罠


保守主義の罠  企業は「企業の価値をより高める」という目的に向けて動きだすと、多くの企業は根本的な変革の必要性に迫られることになります。変革は組織に実際の、もしくは想像上のリスクをもたらします。一時的に収益が悪化することもあるかもしれません。 そのため企業のトップも「最高」を目指すより「無難な業績目標」を目指すほうが取り組みやすいため、現状維持路線に甘んじて変化を嫌います。変革にともなう組織の摩擦や葛藤をコントロールすることは大変な労力をともなうからです。  しかし、この「保守主義」こそが企業の変革、価値向上にとって最大の障害であると言えるでしょう。社内からの昇進によってトップが選ばれることの多い日本企業では、特にこの保守主義の罠に陥っている傾向が強いといえます。


近視眼の罠  企業は業績を1年毎の決算、もしくは上場企業であれば3か月ごとの四半期決算の業績で判断されています。企業のトップであれば株主、金融機関から、事業部門長であれば社内の人事考課として、3か月〜1年の短期の業績によって貢献を判断されていることになります。

 この近視眼的な業績評価によって、長期でみると有益な投資であったとしても、短期でみればコストが積み上がるなどの理由から、投資に踏み切れずみすみす将来的にキャッシュフローの増加、成長をもたらす事業機会まで見送ってしまっていることが多々あります。近年多くみられる大企業の不正会計も近視眼が原因です。



業務改善の罠  かつては、不況時は収益改善のために業務改善に努め、根本的に事業のやり方を見直すのは好況時に限って行う、という企業が多かったのですが、近年さまざまな産業において抱えている課題が好況不況に連動した周期的なサイクルではなく、構造的かつ永続的なものとなってきているため、業績向上のやり方そのものを抜本的に変革していく必要があります。

 業務改善に過度に依存していると、結局、縮小均衡に陥り、変革に必要な投資を怠ったことによって、長期的にみると高コスト構造になってしまい競争力を失ってしまうということにもなりかねません。業務改善の強さはカイゼンとして、かつて日本企業のお家芸でした。しかし、その強みへの過信がイノベーションの出遅れを招き、90年代、00年代の日本企業の停滞につながってしまいました。業務改善という現在の取り組みの延長線上にある取り組みだけでは、企業が根本的に抱える課題に対応していくことはできないのです。



 これらの多くの企業が陥ってしまっている慢性的な課題に対処していくために、プライベート・エクイティ・ファンドの企業変革の手法は、企業全体の価値・業績向上に向けた取り組みとして、事業会社の経営にあたっても重要な教訓が含まれています。




プライベート・エクイティ・ファンドの企業価値創造プロセス



 プライベート・エクイティ・ファンド(以下 PEファンド)は、おおよそ以下のプロセスで投資先企業を選定し、キャッシュフローの増大によって企業価値を高め、売却(EXIT エグジット)し、譲渡益を得ます。


プライベート・エクイティ・ファンドの企業価値創造プロセス

 かつて、80年代、90年代のPEファンドの黎明期においては、PEファンドの利益のあげ方は現在に比べるとシンプルなものでした。投資対象企業の買収にあたり、買収金額の90%にも及ぶ負債を対象企業自体に負わせるレバレッジド・バイアウト(LBO、Leveraged Buyout)と呼ばれるスキームを用いることによって、ごく小さな自己資本で対象企業の買収を行い、やがて投資先企業が事業から生まれるキャッシュフローによって負債を返済すると、好況に乗じて高い価格で売却されました。少ない自己資本での買収、高い債務比率(レバレッジ)、売却時の好況に乗っかった高い株価倍率の組み合わせによって、PEファンドはいわば錬金術のごとく高い収益を生みだしていました。


 しかし、いまではPEファンドも増え、競争も激化していることから投資対象企業を資産の潜在価値より低く買うことは難しくなりました。また売却案件の買収競争も激しくなり、将来的に企業価値を高めていくためのしっかりした計画がなければ、投資に見合ったキャピタルゲインを得ることは難しい環境になってきています。


 現在、PEファンドの多くは、金融工学的に価値を生みだすことよりも、企業価値創造プロセスに正面から取り組むことで「企業価値の本質的な創造(キャッシュフローの増加)」に注力する「ハンズ・オン(自ら経営に関与する)」方式に向かっています。高い収益率をあげているPEファンドほど、このハンズ・オンでの取り組みに強みがあります。


 では、より具体的にPEファンドはどのように企業価値の向上を達成しているのでしょうか?



プライベート・エクイティ・ファンドの方法論



最大潜在価値を見極める


 PEファンドが投資先を決定するにあたってまず最初に行うのが、その企業がどこからどのように利益をあげ、なぜ自分達がその企業に投資を行いたいのかについて、理解を深めることです。彼らは、その企業とその企業が属する業界について客観的に事実に基づいて綿密なデューデリジェンス(企業価値の評価)を実施します。またそのデューデリジェンスは3~5年後に潜在的価値を最大限に引き出した場合、どの程度の価値の向上が見込めるか(つまり、キャッシュフローをどこまで増やせるか)ということも見据えて行うため、現在価値を評価する一般的なデューデリジェンスと区別して、「戦略的デューデリジェンス」とも呼ばれています。実際にPEファンドが投資決定をするにあたっては、3~5年後に企業価値が3~4倍以上になることが目安になってきます。



 戦略的デューデリジェンスを実施する際、PEファンドは最低限、次の5つの点について検討します。



<戦略的デューデリジェンスにおいて検討すべきこと>


・需要創出要因分析

 需要が生まれる根本的な要因はなにか?

 またその要因はどのように変化し、需要にどのような影響を与えるか?


・顧客分析

 顧客はどのように変化するか?


・競合分析

 競合はどのように行動するか?

 業界の競争ルールに大きな変化が起こる可能性はあるか? ・環境分析

 将来、技術的に、または規制上の変化によって、影響を受けるか?


・ミクロ経済分析  その企業はどこでどのように利益を生み出しているか?

 より効率的に行うことはできるか?

 PEファンドはこの戦略的デューデリジェンスを通じて、3~5年後に「キャッシュフローをどこまで増やせるのか?」ということを徹底的に検討します。

 同時に、最大潜在価値を追求するために重視されるべき主要イニシアチブ(取り組み)を決定します。その際、重要なイニシアチブにトップマネジメントチームの活動の焦点を合わせるために、3~5つの主要イニシアチブに絞り込み、また「しないこと」も決定します。


 主要イニシアチブの決定にあたっては、経験、業界の慣習、経営者の勘に頼らず、「白紙」から物事を考え、あくまで事実ベースで検討します。


 大胆で、効果的なイニシアチブを決定するために、また現状維持志向を打破するために、特に下記のポイントについて十分に検討する必要があります。



<効果的なイニシアチブ決定のための検討事項> ・現在の活動をより収益の高いものにするために追加すべき活動はあるか?

・将来の成功に向けて、一部または全部のプロジェクトを位置づけし直す必要はあるか?


・将来に結びつかないプロジェクトからの経営資源を再配置(整理、撤退、再配分)する必要はあるか?






企業価値向上の具体的なロードマップを描く


 ここでいうロードマップとは中期経営計画のようなものではなく、最大潜在能力を引き出すために見定めた主要イニシアチブを達成するための詳細かつ具体的な行動計画、改善計画のことです。かつてIBMを瀕死の状態から再建したルー・ガースナーが会長兼CEOに就任当初「いまIBMにもっとも必要のないものはビジョンだ」(注)と語ったのは有名です。この言葉が表すように、有事の変革の最初の段階において優先しなくてはならないのは、抽象的なビジョンよりも「キャッシュフローの改善」であり、そのための具体的な取り組みなのです。


 もちろん一般的な企業においても分析に基づいた事業計画はありますが、将来的に大きな成長が見込まれる有望な部門により注力するために、整理縮小すべき部門はどこかということまで突っ込んだ議論がなされている企業はそう多くはありません。ほとんどの企業では、すべての事業部門において過去最高の成長率を目標とし、しかし全体としては月並みな計画を掲げているのが実状です。企業価値の向上のためには、より具体的に「なにをどのようにすればキャッシュフローが増えるのか」について行動計画にまで落とし込んでいく必要があります。ただし、この時、長期的な視点を持たずコスト削減偏重の短期的なキャッシュフローの改善のみを追い求めれば、むしろ将来の企業価値を損なう結果になることにも注意する必要があります。


 ロードマップの作成にあたっては、主要イニシアチブごとに、以下の事項を決めます。



<主要イニシアチブごとに決定すべきこと>


・具体的な行動


・必要な資源


・スケジュール(3~6か月)


・プロジェクトの段階ごとの到達目標


・評価指標(インディケーター)


・提出書類




(注)ルー・ガースナーは90年代にIBMを倒産瀬戸際の瀕死の状態からV字回復を成し遂げた経営者。IBMの会長兼CEOに就任する以前にもプライベート・エクイティであるKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)が大型買収を仕掛けたRJRナビスコのCEOを務め結果を残した。IBM後には世界最大級のプライベート・エクイティであるカーライルグループの会長を務めた。なお、先述の発言はこう続く「たったいまIBMに求められているのは、各事業についての冷徹で、市場動向に基づく実効性の高い戦略だ。つまり、市場での実績を高め、株主価値を高める戦略だ。」






優秀な人材を登用する


 ロードマップが作成されたら、次はそのロードマップの実行のための組織を編成します。PEファンドは、現場にも足を向け、顧客の声を聴き、課題を抽出することは当然として、組織を動かしていくためには「経営陣と取締役会によるトップ・マネジメント・チーム」を最重視します。そして、トップ・マネジメント・チームの各メンバーはそれぞれ主要イニシアチブの実行に責任を持ち、最優先事項として経営に取り組みます。


 トップ・マネジメント・チームのメンバーは、成果報酬の比率を高め、職責に応じて株式、ストックオプションを付与することで、成功に向けて、結果主義を徹底し、PEファンドと目標意識を共有します。経営者であると同時に株主でもあるといったほうが良いかもしれません。人材には、主要イニシアチブの実行にふさわしい能力と意欲が求められます。社内に適当な人材がいない場合には、社外からも積極的に人材を募ります。人材の特徴としては、問題解決型であることは間違いありません。経営者にふさわしい優秀な人材を確保できるかどうかもPEファンドの力量が問われる点といえるでしょう。


 また、トップ・マネジメント・チームを機能させるために、主要イニシアチブに関する情報、主要評価指標の状況、異変がまっさきにトップ・マネジメント・チームに伝わるように体制を整えます。


 主要イニシアチブの実行にあたっては、各イニシアチブごとのプロジェクト・チームを編成し、プロジェクト・チームには特別な権限を与えるのと同時に、各イニシアチブの実行の責任者にはトップ・マネジメント・チームの一員を任命し、説明責任を与えます。イニシアチブに対する当事者意識を持たせることが重要になります。



<実行のための組織づくりのために重要なポイント>


・極めて優れたトップ


・トップマネジメントチームを組織する(経営陣、取締役会)


・イニシアチブ遂行のための組織(実行にふさわしい能力と意欲を備えた人材)


・責任の明確化(説明責任)


・報酬で報いる(特に株式による報酬)






主要評価指標を計測し実行プロセスを管理する


 PEファンドが最も重視するのは、キャッシュフローです。会計上の利益ではなく、キャッシュフローを最重視します。

 また主要イニシアチブの実行のためのロードマップの進捗を把握、管理、モニタリングするにあたっては、元々その企業で使われていた会計指標、管理会計データはあまり効果的でないことのほうが多いため、新たに適切な指標を設けます。会計上の利益をはじめとして、一般的に使われている会計指標は様々な要素によって歪められており、直接的に事業のキャッシュフロー創出力を表しておらず、また、新たに決定された主要イニシアチブの達成度を測定するために適切とも言えないためです。


 そこで、PEファンドは、主要イニシアチブごとに適切な主要評価指標(インディケーター)を設定します。

イニシアチブごとに、インディケーターも異なるため一概には言えませんが、効果的なインディケーターは以下の特徴を備えています。



<効果的な主要評価指標(インディケーター)の特徴>


・アウトプットを測定する。アクティビティ(活動)を測定するのではない。 (例)営業の注文を測定し、訪問回数を測定するのではない。


・物理的に測定し、計算のできるものを測定する。


・正副の対をなす。

(例)在庫量の減少と欠品率を併行して測定する。



 インディケーターはあらゆる種類の問題を解決する時に非常に役に立ちます。イニシアチブの達成に向けて何か問題があれば、規準からの不健全な形で逸脱している部分を調べることができ、責任者に是正を求めることができます。まとまりがあり、的確なインディケーターを組織的に収集し、これをまとめて維持していなければ、必要な情報を入手するのに恐ろしいほど多くの迅速な調査を実施しなければならず、その情報が手に入るころには、問題は手がつけられないまでになっていることでしょう。






自己資本を働かせる


 一般の事業会社が、損益計算書(PL)を重視している傾向が強いのに対して、PEファンドは貸借対照表(BS、バランスシート)を重視しています。会社は成長するために、資本を必要としています。その資本に対する考え方が、一般の事業会社とPEファンドでは大きく異なります。

 多くの事業会社は、バランスシートを静的な業績指標として見て、いままでの事業の結果として考えています。それに対し、PEファンドはバランスシートをダイナミックな(動的な)経営ツールとして考えています。


 PEファンドは、自己資本の消費が少なく抑えられるレバレッジ(借入金)を最大限活用します。たとえば、10億円の投資が必要な事業に対しては、3億円の自己資金を出資し、7億円を借入金で調達します。そして、その事業は現金を生み出すことに集中し、借入金を返済すれば、次の生産的な投資に資金を振り向けます。また、固定資産の運用も積極的に見直し、資産を担保に追加の借入を行ったり、オフバランス化によって現金を創出するなど、積極的に運用を行います。レバレッジを活用することで投資効率を高めると同時に、自己資金の減少を抑えるのです。

 また、いわゆる営業フリー・キャッシュフロー仮説においては、有利子負債は経営者の投資、資本の活用に対する統制を強化する効果があるとされています。PEファンドは過去数十年にわたってこの営業フリー・キャッシュフロー仮説を実行してきたことで知られています。特に、キャッシュフローは潤沢だが成長機会に乏しい企業では、経営者の統制の手が緩みがちになります。従業員への諸手当を手厚くしたり、豪華な社屋を保有したり、成長を実現するために価値を毀損するような投資プロジェクトに承認を与えたりしてしまいます。有利子負債によって、計画的な元利返済を事業からのキャッシュフローでまかなう必要が生じることによって、経営者の資金管理に対する姿勢を厳密なものに強化することができます。


 このようにPEファンドは自己資金に、(1)新たな事業資金の調達、(2)経営陣の資金管理に対する統制を強化するという2点において、自己資金自体も働かせているのです。



<自己資本を働かせるために必要なこと>


・キャッシュの創出力に焦点をあわせる


・レバレッジ(借入金)を活用する


・バランスシート上の資産、特に収益を生み出していない資産を新たな資金創出に活用する


・運転資金を徹底的に管理する

・投資を徹底的に管理する






責任、成果に根ざした結果主義の企業風土を醸成する


 買収した企業が最大潜在価値に到達するためには、組織内部から新たな成功を生み出す体制を整える必要があります。そのためにPEファンドは結果主義の企業風土を植え付けることに注力します。


 結果主義の企業風土をつくりだすために、まず最初に肝心なのが、早い段階で顕著な成功事例を示すことです。成熟企業での諦めムードなどを一掃するためにも、この点は非常に重要になります。また、事業責任を明確にし、指示を与えたら、必ず、完遂を求めることが必要です。この点、意外と多くの企業で見過ごされている点ですが、指示を与えられても、その後やり切るところまでしっかり追いかけられていないケースはよくあります。


 そして、コミュニケーションを重視することも重要です。大きな変革にあたっては、従業員は本能的に保身的になりやすくなっています。その時、明確な方針、指針をしっかりと常々伝えていくことで、変革に従業員を巻き込んでいくことが、自発的な取り組みを促すうえで重要になってきます。

 コミュニケーションの手段は、文書化された公式のコミュニケーションだけでなく、口頭、電子メールでの非公式のコミュニケーション、またトップ自らが行動によって断固たる変革への意思を示すことによって、組織の変革を促していく必要があります。



<結果主義の企業風土を醸成するために必要なこと>


・顕著な成功事例を示す


・コミュニケーションを重視する(公式、非公式、行動)


・事業責任を明確化して完遂を求める(説明責任)


・反復可能な方式を確立する(ルーティンまでの落とし込み)


・絶えず計画を上方修正し、指標を見直す






 プライベート・エクイティ・ファンドは上記のプロセスを実践し、「本質的な企業価値の向上=キャッシュフローの増大」を実現させています。

 近年、株式への直接投資、投資信託、債権、不動産、ヘッジファンドなどのほかの投資形態より優れたリターンをあげており、年金基金、大学基金などの機関投資家も、PEファンドへの投資比率を高めてきています。つまり、そのことはPEファンドは買収企業の企業価値をそれ以上に高めてきたということを示しています。


 一般の事業会社の経営においても、PEファンドの実践している考え方、取り組みは大いに参考になることでしょう。




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