どのようにしてビジョンを従業員、顧客の行動につなげるか


どのようにしてビジョンを従業員、顧客の行動につなげるか?(企業のDNAを設計する)


経営理念、経営ビジョン、クレド、社是、社訓、ミッション、バリュー、コミットメント、コンセプト…


企業には、様々な理念が掲げられていますが

(時には名画のように額縁に飾られていることもあります)、

それらの言葉が自ら社員を行動に駆り立てるまでに至っている企業は実際にはとても少ないでしょう。



では、経営理念は無用の長物なのでしょうか?


それとも、経営者のエゴに過ぎないのでしょうか?



いえ、決してそうではありません。

むしろ、以前より一層重要性が高まってきています。


終身雇用制が過去のものとなり、

緩やかな連帯でつながる新しい雇用関係(いずれ1人で複数社に勤めることも当たり前のことになるでしょう)が主流となり、

物理的に従業員を拘束することによって組織をまとめることは難しくなってきています。


そのような雇用関係の中では、

“共有された価値基準”によって一人一人が強固につながり、結束することが不可欠となります。



また、現在の市場環境についても、

自社、競合、顧客をはっきりと分けることは非常に難しくなってきています。


例えば、アマゾンは、インターネット通販の本屋だと思っていたら、ドローンの開発で先行する最強の物流会社であり、またクラウドサービスのインフラ事業においてはマイクロソフト、グーグル、IBMを大きく引き離してシェアトップになっています。

成長著しいairbnbについても、ホテル業界はまさか個人宅が競合になるとは思いもしていなかったでしょう。

また、Ubarは現在、タクシーの代替サービスとして配車サービスを提供していますが、ロボティクス技術の進展に伴い、自動運転車、AI搭載ロボットと人間とのコミュニケーション・プラットフォームとなっていくことも考えられます。


このような複雑な市場環境においては、組織の意思決定にあたり定量的なデータだけでなく、定量化できない主観的価値についても経営理念という組織独自の共通の尺度によって評価する必要があります。

また、商品・サービスの提供を通じて外部環境とつながるだけではなく、

明瞭なメッセージを絶えず発信し、価値観を共有することによって、自社の進んでいく方向を明確にしていくことが求められます。


つまり「私たちは何の会社なのか?」ということを、私たちは以前にも増して、より一層深く検討していく必要があります。



そこで本稿では、意思決定プロセスの設計、従業員へのインセンティブの設定、顧客への効果的な自社ブランディングを行うための経営理念構築のフレームワークを提示します。



では、多くの経営理念の浸透の妨げとなっているものは何なのでしょうか?



ボトルネックは何かを考えるにあたって、

経営理念の機能について考えてみましょう。


経営理念はいくつかの機能が組み合わさって成り立っています。


(例)

・未来を予測する

・長期的な目標を示す

・蓄えるべき知を示す

・約束する

・生み出す価値を明確にする

・価値基準を共有する

・経営者、従業員を鼓舞する

・経営者、従業員に規範を与える

・自社の個性を表す

・それに向かって努力をすることを求める

・適合しないものを取り除く

・必要となる人材や資源を明らかにする

・貢献する対象を明らかにする



これらの機能が、対象も方向も別々に働いていては効果的ではありません。

対象、方向、内容が“明瞭で一貫していること”、また“トップの行動と一致”していることが必要です。


経営理念の浸透に失敗している企業では、

企業からのメッセージの焦点が不明瞭となっているケース、

発信しているメッセージと意思決定プロセス、インセンティブに関連性がなく目先利益の大小だけで物事が決まってしまっているケース、

もしくはメッセージとトップの行動が一致していないケース、

などが見受けられます。


経営理念浸透の妨げとなっているのは、

経営理念の持つ機能の豊富さに対して、定義づけが甘いため機能が効果的に働いていないことにあります。


むしろそれぞれの機能が場合によっては相反し、打ち消し合ってしまっていることすらあります。

そのため組織が不必要に混乱し、意思決定の停滞を引き起こしているのです。



では、それぞれの機能を効果的に働かせる経営理念を定義する前に、

経営理念の概念的側面を整理してみましょう。



まず、経営理念の持つ機能を3つの概念に分類する経営学の伝統的な考え方があります。


内面に働きかける3つの力

・ビジョン(展望)

・バリュー(価値)

・ミッション(使命)


ビジョン、バリュー、ミッションが、

組織の共有された意識となります。


“関係者の内面に働きかける力”とも言えるでしょう。



次に、ここではさらに、

内面に働きかける3つの力に、

実現のための3つの手段を加えます。


実現のための3つの手段

・アクション(行動)

・ナレッジ(知識)

・ストラテジー(戦略)


この3つの手段が、

“個人または組織の外部に働きかける力”となります。




これらの6つの要素の関連性と、

企業が情報を処理するにあたっての基準、プロセスを説明したものが、

「ビジョンから行動への6段階フレームワーク」です。


ビジョンから行動への6段階モデル

6段階のそれぞれの段階について、

上位の概念は、下位の概念を規定し、動機づけます。

下位の概念は、上位の概念の具体的実現に貢献します。


つまり、上位概念は下位概念の目的であり、

下位概念は上位概念の手段であるといえます。


例えば、

ビジョンは、どのような知識が必要となるかを決め、動機づけます。

また、新たな知識の創造がビジョンの実現に貢献します。


知識創造は、どのような価値を生み出す必要があるのかを決め、動機づけます。

そして、企業価値の蓄積が、知識創造の実現を可能にします。

(企業に価値があるからこそ、より多くの人からの協力を得ることができる)


企業価値を高めていくことが戦略の前提条件であり(価値を下げる戦略はありえない)、

戦略の成果によって、企業価値は高まります。


戦略に沿って、個別の具体的ミッションが示され、行動によって実現されます。


また、より大きくとらえると、

ビジョンはどのような行動をすべきかを規定し、動機づけます。

そして、行動がともなってはじめて、ビジョンは実現にむかって動きだします。


このように各段階がお互いに影響し合い、目標への到達を促しているのです。


逆に、いずれかの段階の定義に適合しない企業活動は破棄されていきます。


6つの段階をしっかりと定義して初めて、

トップのビジョンを一人一人の行動に効果的につなげることができるのです。




各段階を定義するために、

経営者は以下の質問に答えることで自社のメッセージの中で欠けている部分が見えてくることでしょう。



(ビジョン)

未来はどのような姿になっているか?

その未来の中であなたの組織はどのような役割を担っているか?

どのような想いがあるか?

野心的な展望をもっているか?


(知識創造)

どのような知識、経験、ネットワークを築き蓄えるのか?

新しいコンセプトを生みだしているか?


(企業価値)

どのようにして企業価値を高めるか?

顧客にとっての価値はなにか?


(戦略)

業界のルールを書き直し、新しい市場を生み出し、そこで競争優位を獲得していくための展望を持っているか?

いま最も重要な課題の本質は何か?


(ミッション)

私たちはこのビジネスでどのように勝とうとしているのか?

明確で具体的な基本方針を示しているか?

目標、予算、課題は何か?


(行動)

効果的に行動し、目標実現のために主体的に動いているか?

経営陣自ら、行動を起こしているか?




次に、各段階の性質と、

他の段階との関係性を考えてみたいと思います。



6つの段階のうち、

「ビジョン」と「知識創造」は、抽象的概念です。


「行動」「戦略」「ミッション」は、具体的概念です。


そして、抽象的概念と具体的概念をつなぎ合わせ、

お互いの力を変換し働かせるインターフェイスとなっているのが「企業価値」です。



6段階モデルの各概念の性質



価値は、計算でき、とても明確で明瞭です。

実体のない抽象的な概念を、数学的明瞭さをもって、具体的なアクションに変換します。

また、現実的で物理的なアクションを、抽象的な概念、理想の実現に昇華させる役割を担います。



これらの抽象的、具体的、明瞭と性質の異なる6つの段階を検討、定義し、整合性をもたせ、

エッセンスが要約されたメッセージとして統合することによって、経営理念を効果的に機能させることができます。

またメッセージはトップの行動で示されることでより強く速く機能します。


「ビジョンから行動への6段階フレームワーク」を活用することで、

柔軟な意思決定プロセスの設計、従業員のモチベーションを高めるインセンティブ設定、効果的なメッセージによる自社ブランディングを構築することができます。


しっかりと各段階を定義し、ダイナミックに連動させていくことで、

組織は外部環境にも影響を与えながら、ビジョンを行動につなげ、行動をビジョンの実現につなげていくことができるのです。






参考文献:


『知識創造企業』

The Knowledge-Creating Company: How Japanese Companies Create the Dynamics of Innovation

野中郁次郎、竹内弘高 1995


『コア・コンピタンス経営 :未来への競争戦略』

Competing for the Future

ゲイリー・ハメル、C.K.プラハラード 1994


『企業価値評価 : バリュエーションの理論と実践 第5版』

Valuation : Measuring and Managing the Value of Companies, Fifth Edition

マッキンゼー・アンド・カンパニー、ティム・コラー、マーク・フーカート、デイビッド・ウェッセルズ 1990,1994,2000,2005,2010