❛00年代以降の産業メカニズムの重要な変化


‘00年代以降の産業メカニズムの重要な変化



市場の変化が早くついていくのに精一杯…、

年々利益率が低下している…、 市場そのものが失くなってしまった…、 以前と同じようにもしくはそれ以上に取り組んでいるが業績は悪化していく…。


 このような中小企業経営者の声をよく聞きます。

 また中小企業だけでなく、マクロ経済レベルで俯瞰しても、いま世界経済は突発的な変化、アクシデントが頻発し、その対応に混迷しているように見えます。


 その一方で、その荒波にまるで波乗りするかのように、高い成長率を継続して実現する企業も多く現れてきています。



 これらの現象の背景について考えてみましょう。




2000年代以降、産業のメカニズムが大きく変わった


 あなたは'00年代以降、産業を動かすメカニズムが様変わりしてしまったことにお気づきでしょうか?


 このメカニズムの変化を理解しなければ、新しい技術、熾烈な競争、代替サービスの登場による止まることを知らない利益率の低下、懸命に事業に取り組んでいるにも関わらず、なぜ業績は徐々に悪化していくのかについて理解することはできません。そして、長期低迷にあえぐ企業がある一方で、産業メカニズムの変化をとらえ、突如新星のごとく現れ、成熟市場に風穴をあけることで新たな需要を創出している企業もあります。

 低迷する企業と、躍進を遂げる企業とでは何が違うのでしょうか?


 いまこそ経営者は、産業のメカニズムが'00年代以前と以降とでは全く変わってしまったことを理解し、学ぶ必要があります。

 本稿では、産業のメカニズムの変化と、そのことによってもたらされた重要な三つの事実について考察します。


 まず、この20年で産業のメカニズムが変わった原因の根底には、IT化とグローバル化があります。


 ITテクノロジーとグローバリゼーションがもたらす直接的な変化については、すでに実感されていることでしょう。

意外なところで、IT化とグローバル化が特に顕著な(そして本質的な)変化をもたらしたのが、実は「金融」です。


これが第一の重要な事実です。




重要な事実① 実体経済 対 金融経済の規模の比が「10倍」以上になっている

 普段の日常的な製品・サービスの金銭的取引のことをを実体経済といいます。 運用やリスクヘッジのための金融資産の取引のことを金融経済といいます。


 実体経済と金融経済の比率はGDPと金融資産残高の比率で比較されることが多いのですが、1980年には実体経済対金融経済の比率は1:1.07に過ぎませんでした。両者はほぼ同じ規模の存在だったのです。

 しかし、その後金融経済が急激な膨張を見せ始めます。1990年には実体経済の約2倍に、2000年代には約3.5倍に、現在では10倍以上と言われています。


 90年代初期までの健全な時代においては、金融経済は実体経済の潤滑油として機能していました。事業機会があれば経営者は、内部留保に加えて銀行から担保の範囲で資金を調達し投資を行い、投資によって生まれたキャッシュを借入資金の返済や株主への配当として還元されていました。


 ところが90年代以降、米国において、コンピュータの発達と足並みを揃えるようにして金融理論も大きく発展を遂げ、デリバティブと呼ばれる先端的金融手法が開発され広く普及しました。様々なオプションによってリスクが分散されたことで、金融資産は大きなレバレッジをかけて運用されるようになりました。


 また、IT化とグローバル化によって、世界の金融市場はつながり、巨額の資金が短時間で世界中を動くようになったのです。


この事実が与える影響は、無視できないというよりも非常に重要なものとなっています。



 なぜモノづくりに強い日本企業が海外勢に負け続けているのか、その理由もここにあります。


 日本企業は投資にあたって、まずどのぐらいの投資ができるのかということから投資規模を考えます。もしくは自社の現在の技術や、保有する資産をもとに何ができるかを検討します。


 一方で、海外企業はまず今後の競争に勝ち残るためにはどの程度のリソース、そして資金が必要なのかという点から検討します。そして彼らは勝つことを前提に、巨大な金融市場から潤沢な資金を調達し、競争に臨みます。

いかに日本企業の現在の技術が優れていたとしても、未来の競争に対する想定、準備資金、戦略の次元が全く異なれば多勢に無勢、勝負になりません。


 日本企業の経営者はこの事実について、学ぶ必要があります。




重要な事実② 企業の数が余剰になっている

 IT化とグローバル化によって、世界にひとつの大きな市場ができたと言っても過言ではないでしょう。


 市場がグローバル市場としてひとつになったことによって、国内市場に大きなシェアを占めていた大企業も、グローバル市場の小さなプレイヤーとなってしまいました。グローバル市場での生き残りをかけた企業の競争も激化しました。例えば日本の液晶テレビのメーカーは数社かもしれませんが、世界で考えると数十社もの液晶テレビメーカーは必要なくなってしまったことは市場構造を考えれば、明らかです。


 グローバル市場が生まれたことによって、世界的に企業の数が過剰になってしまったのです。


 ローカル市場においても、'00年代以前は同じ地域の同業他社が主な競争相手でしたが、現在は、インターネット上で比較対象とされる様々な業種と競合します。そのため、企業は顧客からの厳しい選別に直面しています。



 過剰な生産能力、過剰な販売網、過剰なブランド数、増える競合・代替サービス…、こういった事柄に対処していくために、企業の経営者は「選択と集中」を今までとは違う、さらに研ぎ澄まされた次元で取り組まなければならなくなったのです。


 この新しい競争環境のもとで、わずかでも競争相手に対して抜きんでるためには、自社の戦う土俵を90年代以上に絞り込まなければなりません。優れた企業として生き残るには、中核事業のフォーカスは絞り込み、非中核事業は切り離していく必要があります。




重要な事実③ 製品・サービス市場のライフサイクルが短縮化している


 潤沢な資金の供給と、グローバル供給網(サプライヤーのグローバル化、最適地化)の発達によって、市場への製品・サービス投下と普及のスピードが短縮され、製品・サービス市場のライフサイクルは急激に短くなってきています。


 以前は、じっくりと開発に取り組んだとしても、差別化された製品を市場に送り込めば、一定期間は差別化による超過利潤を企業は得ることができ、開発コストを消化することができましたが、いまでは瞬く間にその先行者利益は消え、短期的に矢継ぎ早に市場に新商品を投下していかなければ優位性を維持することはできなくなってきました。


 そのため、企業は社内のリソースの活用だけでなく、よりオープンな環境で社外リソースも取り込んで開発スピードを高める方法を模索しています。例えば、以前であれば、あるシステムを開発した際にそのソースコードは重要機密として社内で慎重に扱われていましたが、いまでは、ソースコードを社外にも公開することによって(オープンソース)、社外の開発リソースを巻き込むビジネスモデルが主流となってきています。


 オープンソースによるプラットフォームを確立できた企業は、安定した基盤を獲得します。

一方、多くの企業はプラットフォーム型企業に乗っかる形で生き残りを図るしか方法がないという場合もあります。



 また、製品・サービス市場のライフサイクルの短縮化によって、中小企業にとってより重大な問題が起こることも考えられます。


それは、製品・サービスのライフサイクルが、人材育成期間よりも短くなりつつあること、顧客との関係構築よりも短くなりつつあることです。


 つまり、いままで中小企業は、専門性の高い人材の教育と、顧客との緊密な関係性の構築によって、付加価値を生み出し単価を維持してきましたが、今後は、ある事業に対して専門性を有する人材を育成する期間よりも、顧客を獲得し信頼関係を築くよりも、事業が属する市場そのものの寿命のほうが短くなってしまうということも充分に考えられます。


 ある事業のオペレーションを任せられる人材が育つよりも早く、市場が飽和し成長機会が縮小してしまう。

顧客から特定の商品・サービスに関しての信頼を得るよりも早く、市場が飽和し成長機会が縮小してしまう。

ターゲット層に自社や自社サービスの存在が認知されるよりも早く、市場が飽和し成長機会が縮小してしまう。



 このことは、経営者はマネジメント方法について品質管理、人材育成、顧客満足以上のことを考えていかなければならないことを暗示しています。



 経営哲学者のピーター・ドラッカーは、かつて「すでに起こった未来」という表現を好んで使っていました。


未来を予言することはできませんが、すでに起こった変化の予兆を注意深く観察し、将来に備えることは可能です。

 経営者の方は、産業メカニズムの変化について十分にご留意いただき、今後の自社の戦略策定に活かしていただきたいと思います。

参考文献:

『世界を壊す金融資本主義』

Le capitalisme total ジャン・ペイルルヴァッド 2005